第4話:無双・ルイジア公爵ローザ卿視点

 国王と王妃が罵り合いを始めました。

 噂通り、王太子は王妃の不義の子供だったようです。

 それと、私は何も聞かされていませんでしたが、本当に王太子の婚約者だったようですが、知った事ではありません。

 私はこんな腐った奴が婚約者だとは断じて認めません。


「エリル侯爵!

 ボドワン卿、直ぐにゼフラを治しなさい。

 ゼフラをこんな目に合わせた雌豚とミルドを殺してしまえ!」


 王妃が半狂乱になってわめいています。

 気違い沙汰の命令ですが、エリル侯爵ボドワン卿がそれに応じようとしています。

 元はミルバル皇国の騎士で、王妃についてこの国に来た護衛騎士です。

 王妃のごり押しで権力を握り侯爵に成りあがった男。

 王国の忠臣に難癖をつけて取り潰しにした腐れ外道。


「やれ!」


 エリル侯爵ボドワン卿が取立てて手先にしている、若手の男爵連中が一斉に私に襲いかかって来た。

 近衛騎士を王妃の好みで美丈夫優先にしたので、非常時の戦力として、本当に剣技に優れた人間を、男爵に封じて周りに配していたのだろう。

 今のこの国の騎士や並の貴族なら、一撃で殺されていたでしょうね。


 男爵達は訓練の場では優秀な剣士なのでしょうが、血で血を洗う戦場の厳しさのなかで鍛えられた私には、雛鳥のように見えます。

 快楽や経験のために、抵抗できない奴隷や家人を斬り殺した事はあっても、歴戦の戦士と命懸けで戦った事はないのです。

 実戦用の肌着と鎖帷子の着た者を斬り殺すには、どれくらい踏み込まなければいけないかなど、全く分かっていません。


「近衛騎士、何をしているか!?

 さっさとローザを殺せ、ミルドを人質にしろ」


 私が瞬く間に護衛の男爵達を斬り殺したので、ボドワンは慌てています。

 実戦慣れしていない雛鳥を殺すのは簡単な事です。

 舞踏会には乱戦用に短めの剣を二本腰に佩いていたので、それを素早く的確に頸動脈に振るってやれば、五人六人など瞬殺できます。


 それにしても、本当に忠誠心のかけらもない馬鹿ですね。

 まがりなりにも侯爵にまで封じてくれた国王を呼び捨てにして、人質にしろと申したのですから、王妃の閨に呼ばれている腐った近衛騎士でも躊躇うでしょう。

 父上ならば、国王を助けて佞臣どもを皆殺しにしたのでしょうが、私には国王に対する忠誠心はあまりないのですよ。


「今までの悪業の報いを受けよ!」


 長妹のエンナなら、酸を顔に浴びせかけて、二眼と見れない顔にして苦しめるところでしょうが、私は普段から酸を持ち歩いたりはしないのです。

 なので、双剣を振るって耳と鼻を唇を削ぎ切りにしてやりました。

 王太子は既に再起不能なので、王妃、ボドワン、ボドワンの娘で悪女と噂されている双子の姉妹、オレリアとカリーヌを二眼と見れない顔にしてやりました。


 まあ、皇国から魔法薬を取り寄せて治療するか、王家の宝物庫から魔法薬を奪って治療するでしょうが、こいつらが民にやっていると噂に聞く、残虐な処罰を一度くらい体験させておくべきです。


「さて、王太子が申された婚約破棄ですが、喜んでお受けします。

 ついでと言っては何ですが、ルイジア公爵家はボザン王国から分離独立し、ルイジア公国の建国を宣言します」


 あれ、王太子は私との婚約破棄を宣言していましたっけ?

 よく覚えていませんが、まあ、いいです。

 これほどの混乱があったのですから、少々の嘘もあったことになるでしょう。

 全部王太子がやらかした事にしましょう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る