第3話:謀略・ボザン王国ミルド王視点

「なんという事を言ったのです、ミルド!

 優しく大人しいゼフラと、あのように野蛮な鬼娘と決闘させようなんて、それでもお前はゼフラの父親ですか!」


 このアバズレはよくそのような事を口にできるな。

 私がこの女の寝所で愛を交わした事など一度もないというのに。

 流石に結婚当初は、苦い薬を飲む覚悟で寝所を訪れたが、その度に下賤な王族などと褥を共にする気はないと追い返したくせに。

 それでよく子供を生み、余の子供だと口にする。


「余はお前と愛を交わした事など一度もない!

 皇国の手前、この私生児を王太子にはしてやっているが、婚姻立会人もこの私生児がボザン王家に血を継いでいない事を、皇国に報告し史書にも書き記している。

 お前もこの私生児も皇国も、歴史に汚名を残すがいい!」


 言ってやった、遂に言ってやった。

 今までは皇国の事が怖くて我慢していたが、私生児を殺せるこの絶好の機会を逃してなるものか!


「おのれ、そのような些細な、いや、むしろ名誉な事で逆恨みしたのか?!」


 売女の腐れ女がとち狂ったことを口にする。

 王妃が不義密通して生んだ私生児を王位につける事が名誉だと?


「何が名誉だ、これほどの恥辱があるものか!」


「下賤な成り上がりの汚い王家の血が、皇国の高貴な血に入れ変わるのです。

 これが名誉でなくて何が名誉だというのですか!

 わたくしは感謝されこそすれ、非難されるいわれなどありません!」


 この女、本気で口にしているのか?

 本気でのこのような狂った考えを口にしているのか?

 このような話が、大陸中に広まっても大丈夫だと思っているのか?


「よくわかった、余の名誉が傷つき面目が丸潰れになっても構わん。

 今の話、大陸中に広めてくれる。

 それを世間が、世の中がどう判断するか、思い知るがいい」


「下賤で愚かな民が何を考え口にしようと関係ありません。

 皇国の尊い血を継いだ者の考えが正しいのです。

 他の者は、皇室の命ずるままに動けばいいのです。

 皇国の命に従えないというのなら、殺してしまうだけです。

 ミルド、お前も私の命に逆らうというのなら殺しますよ」


 もう許せないし我慢できない、もう我慢の限界だ!

 皇国が攻め込んで来ようと、この首を斬り落とされようと、これ以上屈辱にまみれて命永らえるよりは、誇りを守って死にたい。

 ゴンザの諫言に従い、こんな腐れ女と結婚しなければよかった。

 今死ぬくらいなら、あの時戦いを決意して、ゴンザと肩を並べて討ち死にしていれば、こんな恥の多い人生ではなかったのに。


「殺せるなら殺してみろ、尻軽の売女!

 余はボザン王国の国王だ!」

 




 

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