第2話:懲罰・ルイジア公爵ローザ卿視点

「あああ、なんて事なの、私の可愛いゼフラ!

 おのれ、よくも私の愛するゼフラにこのような真似をしてくれたわね!

 近衛兵、この者をこの場で斬り殺しなさい!」


 若作りをした品のない婆が、いえ、王妃が泣き叫んでします。

 命じられた近衛兵が王妃と私の代わる代わる見て、絶望の表情を浮かべています。

 彼の気持ちは分かります、姫将軍、戦場の鬼姫、戦女神と、数多くの異名を受ける私と戦うのが怖いのです。


 この国の近衛兵は、家柄がよく、男前で身長の高い者が選ばれます。

 ある程度の戦闘力は必要ですが、実戦よりも見栄えを重視しているのです。

 この腐れ婆が皇国から嫁いできて、この国は変わってしまいました。

 王侯貴族は堕落してしまい、騎士団も軍も張り子の虎になってしまいました。

 全ては皇国が我が国を侵攻するための布石、陰謀なのです。


「これは、これは、申し訳ない事をいたしました。

 私と婚約したなどと嘘偽りを口にし、王家王国のために戦場で命をかけた将兵を悪しざまに罵るので、何所の乱心者が王太子殿下の婚約披露宴に入り込んだのかと、懲罰を加て決闘を申し込んだのですが、まさか王太子殿下だったとは、思いもしませんでした」


 何度同じことを口にしようと、ここは知らぬ存ぜぬで通します。

 幸い私はずっと戦場にいたので、王太子の顔を知りません。

 記憶が残っていないような幼い頃に会ったかも知れませんが、十三才の初陣以降の五年間は会っていません。


「おのれ、白々しい事を口にしおって!

 国王が何度も頼むから、仕方なしに婚約を認めてやったというのに!

 ゼフラが少し苦言を呈しただけで、このような理不尽をしでかしおって!

 何をしている、近衛兵、直ぐに殺せ、殺すのじゃ!」


 糞婆が訳の分からない事を口にしています。

 国王陛下が私と王太子が婚約していると婆に言ったというのです。

 この婆は狂ったのでしょうか?

 毎日入れ代わり立ち代わり、寝室に愛人を引っ張り込んでいると評判の王妃ですから、梅毒が脳に回って狂った可能性もあります。

 どうせ感染したのなら、早く梅毒が進んで、死んでくれればいいのに。


「待て、待て、待て、待て!

 死に急ぐではない、近衛兵。

 王妃の言う事は気にするな、今回の件はゼフラが悪い。

 事もあろうに、王家のため王国のために、戦場で血涙を流してくれたルイジア公爵ローザ卿に対して、貞操を疑うような事を口にしたのだ。

 少々殴られても許されることではない。

 ここは未来の夫として、決闘の場で武勇と漢気を見せ、名誉を回復するしかない。

 どうかな、ローザ卿、これで許してもらえないかな?」


 これはどういう謎かけなのでしょうか?

 私は並の頭しかないので、謎かけを正確に理解できる自信がありません。

 ここにエンナがいてくれれば、国王陛下の本心を見抜いてくれるのですが。

 私の願望かもしれませんが、皇国の血をひく王太子を殺せと、そう国王陛下は命じているのでしょうか?

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