15
「じゃ、タカハシ、靴の説明するよ。ミハイル君も聞いといて」
どんと置かれた靴の入ったバスケット。その中から靴をいくつか取り出しつつ、竹内先生の靴講座が開かれることになった。
「まず、これが靴飛ばしの靴。スリッパみたいでしょ?」
俺もミハイル君も靴を手に取り、あちこちから眺めつつ、説明を聞く。
竹内先生によれば、靴飛ばし競技の靴は、靴紐などがなく、履いたり脱いだりしやすい形状のスニーカーで、一般に「スリッポン」と呼ばれるものである。その中でも、かかと部分がほとんどないタイプで、スリッパに近い見た目のスニーカーである。あと、横から見ると若干だが、飛んだとき揚力を得やすいようなカーブを描いているらしい。
「まあ、見た目、かかとを潰した学校の上履きみたいなもんだよね」
と竹内はまとめる。まあ、言いたいことはわかるが、靴飛ばしの靴の名誉のために言うと、それよりはもう少しかっこいい。
「だけど、それだけじゃなくて、普通の靴と大きく違うところがあるんだけど、どこだと思う?」
「先っぽが重い」
即答できた。靴を手に持つとすぐにわかる。つま先部分のゴムが厚くなっていて、その分、つま先側がかかと側に比べてだいぶ重いのだ。
「そう! 正解! 靴飛ばし用の靴はつま先が重くなってるの。だから、つま先の方からまっすぐ飛びやすくなってる。落ちるときもつま先から落ちやすくなってる。落ちたとき、土のあとが残って計測しやすかったりもするしね」
ちょっと思い出すのは、バドミントンのシャトルだ。ラケットで打つと重くなっている丸い方が必ず前になり、羽になってる方が後ろ。そして、重い方が下を向いてゆっくり落ちていくあの感じだ。それを竹内に言うと、
「そうだね。ちょっとバドミントン要素あるね。でもバドミントンほど大袈裟ではないな。そうなりやすいってだけで、実際は空中で何回も回転することもあるし、まっすぐ飛ばないことが多いんだよねえ。飛行機みたいにつま先からまっすぐ飛ぶのが一番距離が出るんだけど、傾いたり、回転したりして空気抵抗を受けちゃうと、距離が伸びないんだよね。だから、なるべくまっすぐ飛ぶように練習するんだけどね……」
経験者は語るといった具合の竹内の言葉。俺はこの靴がどんな飛び方をするのか、早く確かめてみたいと思ったが、竹内は次の話を始めた。
「そのうち、自分の靴も買ってもらうことになると思う。サイズは……履くための靴じゃなくて、飛ばすための靴だから、自分の足にピッタリじゃなくてもいいわけじゃん?」
だから、靴飛ばし選手は大抵、数種類のサイズの靴を持っている。一つのサイズに落ち着く人もいれば、風の強さなどによってサイズを使い分ける人もいる。まずは自分の足に合うサイズとその上と下のサイズの3サイズくらいを使ってみて、飛び方の違いを研究し、飛ばしやすいサイズを探っていこうと竹内は言う。
ちなみに、竹内は空気抵抗を極力減らすため、自分の足よりかなり小さめの靴を使ってるらしい。
普通、靴は左右でセットだけど、靴飛ばし用の靴に限っては、スポーツショップで左右別々に売られているのだという。もっとも、マイナースポーツだから、店頭では取り扱っていない店も多く、取り寄せになることが多い。だからお店に行くより、ネット注文の方が確実。
余談だが、靴飛ばし競技の靴は、楽に脱いだり履いたりできる上に、しっかりしていて動きやすいということで、普通に左右セットで買って、普段使いしている人も多いという。特に人の家に何度も靴を脱いで上がる引っ越し業者などではよく使われているらしい。
「サイズはセンチじゃなくて、アメリカのインチで売ってるんだよね。ショップのサイトに『サイズ換算表』っていうのが……お! マヌケヅラがぞろぞろやってきたよ!」
竹内が話の途中で何かに気付いた。俺も竹内の見ている方を振り返ると、俺たちが話をしているところに、五人分の人影が近づいていた。
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