4

「へー、はいりふらん、はいえてふらあ」

 へえ、第2グラウンド始めてくるわと、竹内に言った。

 俺の通う上川かみかわ高校は部活用に三つのグラウンドを有している。

 サッカー部、ラグビー部、陸上部などが使う第1グラウンド。硬式テニス部、軟式テニス部、ダンスサークルなどが使う第2グラウンド。この二つは「いちグラ」「にグラ」と呼ばれている。そして、野球部が使う野球場の三つだ。

 三つもあるなんて恵まれているように思えるが、広さ的には、第2グラウンドは、第1グラウンドの半分もない。

 ずっとサッカー部だった俺にとって、第1グラウンドはなじみ深いが、第2グラウンドは未知の世界である。体育の授業でも、まず使われないから、外から見たことはあっても、一度も足を踏み入れたことのない秘境だった。

「そうだよね。肺に何か入ってくるよね。たぶん空気じゃないかな?」

 と竹内は返してきた。なんでそうなる? 俺は決して「肺に何か入ってくるなあ」などとは言っていない。

「いや、第2グラウンド初めてだって言ったんだろ」

 汲み取って、助け船を出してくれたのは背の高いメガネ……「こや」だった。あまり感情のこもっていない、ぼそぼそとしたしゃべり方だったが、おそらくそれがこいつのしゃべり方なのだろう。

 俺は、コクコク頷く。

「私、久米くめ君呼んでくるね。これは君に託す! ほい!」

 俺を引っ張っていたネットの紐を竹内に託し、松林先輩は髪とスカートをふぁさふぁさと揺らしながら走ってどこかに消えた。

 竹内の誘導でさらに歩き、金網で区切られたテニス部の練習場を通り過ぎ、さらに、部室棟の横を過ぎた先に、それはあった。

 鉄の棒で組まれた枠。そこからぶら下がる二本のワイヤー。その先端に橋渡されるように付けられた黒い板。

 ブランコである。

 俺は息を呑んだ。

 公園によくある遊具。しかし、それとは明らかに違う。初めて見る、本格的な、競技用のブランコ。

 ……なんだこの偉容は……。思わず、呆然としてしまう。

「見たことないでしょ? 俺も、初めて見たときはそんなリアクションだった」

 と、竹内が笑いかける。

 俺がやってきた、もとい、連行されてきたこの場所こそ、竹内歩たけうちあゆむが部長を務める「上川かみかわ高校靴飛ばし部」だ……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る