第53話 - 研究の答え -

「大臣! どうするのです、カーリさんが!」


 ベーリットとユミは西区庁舎内の執務室に入っていた。


 カーリは重症などではない。完全に死亡している。致命傷からオプションコールの上乗せのダメージを受けたのだ。万一にも蘇生はない。


「くっ……」


「NO.4のドウターを使って異魂を抽出し、カーリさんに回すべきです!」


「それは、できない……現存の異魂は全て使い道は決まっている」


 ベーリットには嫡子がいない。分家になるがカーリが実質のハーゲン家の跡取りだった。


「なぜです! ただでさえ人材が居ないのです、それ以前にハーゲン家が潰えるのですわよ!?」


「そんなことは私が一番分かっている!」


 冷静なベーリットにしては珍しく声が大きくなる。


「――! も、申し訳ありませんわ」


「……いや、わが家を案ずる気持ちは、うれしく思う。それにお前個人の立場も、分かっているつもりだ」


 強引なやり方も多く、ベーリット派の黒い噂は絶えないが、その政治の実行力は評価されていた。アスティの異魂の抽出ペースが鈍ってからは、同様の能力を持ったドウターを使い、移植を率先した。


 将来性のある人材を多く救った。


 だが書面上は処刑、死亡としているドウターを、秘密裏に囲って名前すら与えず、使い潰す。このやり方に政界では反対派が多かった。


 それでも閣僚返り咲きのためだけに、詭弁を並べ、手当たり次第汚染者も含め召喚を推奨する、ハンス=シュルーサーのような人気取りだけの存在とは違う。ユミのような行動派はベーリットの実行力の姿勢を支持した。


 異魂の抽出が行えるのはドウターでありNO.4と7の2名。ベーリットの幻術で操っているが、その2名ともすでに消耗が激しい。次の抽出能力保有者が現れるまで厳しい状態となっていた。


 魔導士3名を呼び寄せ、カーリに凍結魔法をかけさせる。安置所で保管し、もし異魂が見つかった場合は蘇生しようという方針を取った。


 コンコン!


「失礼します! ア、アスティ様が、ご訪問です」


「なんだと!?」


・・・


-西区庁舎外の広間-


 使用人の風貌のメイドが走ってきた。アンナに耳打ちする。


「え? わ、わかった。……すまない。ここで離脱させてもらう。城に用ができた」


「私はどうしましょう?」


 エスティナには好きに行動してくれと告げ、アンナは駆けていった。


「ユミを討つことを優先したいです。こちらに同行してよろしいですか?」


「ああ、それは構わないが――」


『あのーもしもし? だれか私の魔力を使ってるのかな?』


 突如、エルの声がした。魔通信だ。触媒が無い場合はお互いに高いスキルが必要になる。


「……おい朝姫、バレたぞ。自分で言い訳しろよ」


「やむを得ん……」


「神来社朝姫だ。エル=スラル、勝手に魔力を使ってすまぬ。だが今日一日、特に用がなければ見逃して欲しい」


『え、国賓様ですか? うーん、今から実験をやりたいんです。急ぎですか?』


「……分かった。エル=スラル、その実験の答えをやる。その代わり、今日1日、魔力を貸すことと、質問を絶対に返さないことを約束してくれ」


『え? 何の実験してるか知ってるの? ……ですか?』


「約束するか?」


『す、するよ?』


「おい、エルのその手の返事は一切信用ならないからな」


「――マユ=カベヤマは生きている。したがって、蘇生はできない」


 !?


『え!?』


「な、なんだと!?」


 ブチン


 朝姫は強引に魔法の通信を遮断する。


「おい! 朝姫てめえ、どういうことだ!」


 朝姫の胸倉を掴む。明言こそせずとも、死んだマユの復活を匂わせていた。しかしあろうことか生きていると言う。


「……ふん」


「カ、カベヤマさん」


 エスティナに諭され手を放す。


「くっ……」


「ガード、たどり着くには蜘蛛どころか、先ほどのユミ=マーガリンよりも細い糸を辿る他はない」


「忘れるな。その道を進むには、私しか手がかりはない」


「……」


 ――!?


「あ、あれは!?」


 城側から複数の護衛と共に、皇女アスティが現れた。西区の庁舎へ入っていく。


「な、なんでアスティ様が!?」


「ど、どうするのですか? このまま決行を?」


「当然じゃ。もとよりアスティ派とも事を構える気だったであろう」

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