第54話 - お出まし -

-城内-


 比較的入口から近い、来客控室に大輔とマリーヌの姿があった。扉の無い部屋だが、入り口には衛兵やフローラまでもが滞在し、塞いでいる。


「どうして、僕たちが城から出してもらえないのですか?」


 大輔マリーヌ組は下手を打っていた。立場上、入りやすい城内で先に待機し、移送されるであろう、シャーロテを待ち構える策だった。


 そこへ”待った”が入る。


「ハンス卿暗殺に対する嫌疑が、完全に晴れたわけではありませんのでな」


 もちろんそんなものは建前だと誰もが分かっていた。事件当日に質問されたようなことを、まただらだらと質問され、時間稼ぎをされる。


 ただでさえハンスは強引にふるまってきた経緯があった。無理に突破して帰れば、新当主として代替わりした直後から評判を落とすことになる。


 大輔を迎え入れ、古い血を削ぎ、心機一転家作りをするのが、新当主マリーヌの意思だった。ハンス暗殺の嫌疑はある程度予想していた。


 戦線から離脱してきたアンナが迎えに入る。が、どうすることもできない。


「まあまあ、昼過ぎには、アスティ様がこちらに戻られます。一緒に出迎えようではありませんか」


 焦燥感を出す2人に初老の男が諭すように宥める。宰相とよしみの深い者だ。アスティ派が何か思惑しているのは間違いなかった。


・・・


-ベーリット執務室-


「失礼します! ア、アスティ様が、ご訪問です」


「なんだと!? ッ……しばしお待ちいただけ。ご用向きを聞いてまいれ」


「はっ!」


・・・


 ベーリットとユミが思案する。


「ど、どういうことですの?」


「まずい。先ほどの戦闘を咎めに来る気だ、時間をかけ過ぎた」


 カーリの死を把握している可能性がある。国賓朝姫を利用して、こちらに罰則を与えて派閥の力を削ぐ算段だろうと続けた。


「カーリを集中治療室に運べ! 絶対に誰もいれるな!」


「はっ!」


 ベーリットが部下に指示をだす。


「安置室でなく治療室へ……。まだ存命で治療中ということにしますの?」


「ひとまずは、だ」


「失礼します!」


 次々と来る。


「アスティ様ご用向きですが、早急にシャーロテを城に運べ、との事です」


 !


「そっちだったか。クリス宰相め、殿下に話すとはな」


 そもそもベーリットの計画では移送の話自体がフェイクだった。元から出す気はなかったのだ。情報を錯綜させることで、実際、大輔たちは城へ入り、立往生し、フローラたちも動けていない。


 ハンス卿暗殺の機に便乗し、シャーロテを餌に戦力を分断させ、敵をあぶり出し始末する。ユミが前戦から戻っていて戦力が充実した機会だった。そしてアンナやエスティナ、ガードが釣れた。想定外は朝姫が含まれていたことだ。


 ドウター支持派の戦力を削ったところでシャーロテを改めて説得し、西区の所属に組み入れようとした。そしてゆくゆくは異魂抽出の後継者へと。だがその朝姫の参戦と能力が計算外だった。予定が狂うどころかカーリを失うとは。


「……承知したとお伝えせよ。すぐ連れて行く。お待ちいただけ」


「はっ!」


「シャーロテは諦める。というより、様子を見る」


「大丈夫ですの? クリス宰相では、ドウターは例外なく処刑では?」


「表向きはそうだが、そこまで分別のない人間ではない。アスティ様をじきじきに遣わされた以上、処刑はない」


・・・


「出ろ!」


 シャーロテが連れ出される。1階へベーリット派一同で向かう。玄関で外を見て立っているアスティが居た。


 手錠をかけられたシャーロテとその管理兵以外、全員膝を突く。


「アスティ様、大変お待たせいたしました。シャーロテをここに連れてまいりました」


「ベーリット=ハーゲン大臣。ご苦労さま。このまま城へ参ります」


「はっ! 護衛に、ユミ=マーガリンの同行を上申致します」


「ユミ? カーリではなく?」


「……カーリは負傷しており、治療中です」


「……そう。わかりました」


・・・


「出て来たぞ」


「う、ごほっ ごほ」


 ――アスティ様、やはり体調がすぐれないのか?


「ん?」


 城側からも人がぞろぞろ出てくる。フローラ、アレク将軍、大魔導士ルーファウス、大輔、マリーヌもだ。


「すげえメンツだな。クセで敬礼しちまいそうだ」


 ――何か取引したな。大輔とマリーヌの顔色がイマイチだ。


「というか、なぜ私達は隠れているのです?」


「なんとなくだ。さっき一人ぶっ殺したからな。しかし召喚者だったとは言え、

 ドウターでなく同族だったのは胸が痛むぜ」


「あやつの死はすぐに公にはできまい。どうせストックしている異魂で復活させるのではないか?」


 目立つのですでに陣は消してある。全快して万全だ。シャーロテを連れたアスティ側と、城から出てきたメンバーが、中間地点で向き合う。


「みなさん? この距離で出迎えなど不要ですよ?」


 アスティが勢ぞろいするメンツを見て声をかける。


「ん? 大輔が能力を発動させたようじゃ」


「マジか? どんなのだ?」



「――ベーリット=ハーゲン。国家反逆罪で拘束する」



 !?

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