第52話 - 解 -

「私が行きますわ! 陣の結界から遠のくのであれば!」


 ユミが朝姫を追撃に向かう。転移で一瞬でベーリットの側へ付く。


「近衛は前へ、神来社をバルコニーに入れるな!」


 指示を繰り出し、朝姫の迎撃に入る。


 ――今だ! オプションコール、15秒後だ。相手は……


「カーリだ」


 シュンッ


 3人で結界を飛び出す。朝姫の迎撃態勢に入っているベーリットはこちらに対応できない。しかしガードのOPの発動は全員が感知した。オッドがガードを襲うが、

すぐにエスティナとアンナの妨害に合う。


 ――火龍の位置は……、よし、到底間に合わない。

 

「大臣! 術の解除を! 私が迎撃しますわ!」


「させぬ!」


 朝姫が壁を大きく蹴って、空中から札をベーリットに放つ。近衛が最前方にいるため、バルコニーには入れない。


「させないのはこちらですわ!」


 ユミが糸を操る。


 スパパパパンッ


 放たれた札が粉々にされ、さらに朝姫へ糸の追撃が襲う。


「解ッ!」 

「解ッ!」


 ズバババンッ!


「ぐあ!」


 朝姫は糸の防御を行わずに、ベーリットの解除発動を上から消し去った。巫女服が裂け、身体に複数の線の傷のダメージと出血が噴き出す。


「なんですって!?」


 ダメージを受けてでも解除を優先した動きに、攻撃を当てたユミ本人が驚きを上げる。朝姫はバルコニーに到達できず、落下していく。


 カーリからガードへ魔法弾が撃たれる。ナックルで難なく弾く。


「くっ!」


 間髪入れず側面、そしてフェイクを入れ背後へ回り込む。杖の打撃が来るがそれも軽く交わす。


 ドスッ!


 背中からナイフを突き立てた。


「あんたはドウターを召喚する存在。俺の天敵だ。『異常』を引き起こす。幕だ」


「がはッ!」


 吐血する。致命傷だ。そして。 ――3.2.1.ゼロ。


 ドンッ!


 カーリの瞳孔が大きく開く。そのまま、前方へ倒れた。即死だ。


 火龍が消失する。倒れるカーリを一瞥する。


 ――宰相の言う、経験格差、か。地位も名誉も金銭も学力もあんたが上だろう。だがそれが、生きるか死ぬかまでの差にすらなる。


・・・


「そ、そんな、カーリさんが……」


 ドサッ


「私が暫しオッドをけん制する」


 アンナが宣言し、エスティナに朝姫を救出に向かうよう促す。朝姫が落下した。


「くっくっく、くはは」


 ――――成したか。ガード、お前であれば。


 負傷し落下しても不気味に笑う朝姫にエスティナは少し恐怖した。担ぎ上げる。

アンナは投擲中心で中距離を維持し、オッドに攻撃させない間合いをキープする。


「ッ! 陣の回復に入れる気だ。ユミ、どちらかだけでも倒せ!」


 ベーリットが指示をだす。即座にユミが下に転移する。朝姫を抱えたエスティナの前に立ちふさがる。


 ――まずい、俺の位置からじゃ……!


 指が動き糸の斬撃を繰り出そうとする。しかし同時に鉄扇が舞う。


「ブルスレイド!」


「降龍の舞」


 エスティナと朝姫を中心に竜巻が発生する。


 ブワッ!


「きゃあ!」


 ユミが吹き飛ばされる。朝姫はエスティナの腕を外し、陣へ入る。実際は動けたのにワザと重症を装ったようだ。全員が陣へ戻った。


「あのノータイムで発動する暴風に何度助けられたか、凶悪な技だ」


「降龍の舞は、元は竜巻を降ろす技だが私専用にアレンジした」


 竜巻を発生させ前方に放つ型、自分を中心にして下から竜巻を発生させ囲む型、自分を起点に扇状に風を押し出す型がある。


 ダメージも大きく座り込んでヘタレながらもまだ強気な朝姫、傷がふさがっていく。エスティナも回復術を重複でかけ、一気に全快に近づく。


 ユミが体勢を立て直すと、カーリの元へ向かう。手を添えると、2人同時にどこかへ転移して消える。ベーリットもまた、転移で離脱した。終局だ。


「ガード、今日はお前との手合わせにならなかったな」


「……ああ」


 あばよと、片手を挙げて徒歩でオッドが帰っていく。追撃で狙ってくるならそれでいいといった風貌だ。追う気にならなかった。エスティナ、アンナも同様だ。

素行は悪いが、こういう背中で語れる人間は、少なくなった。


 オッドとは、しかるべき時と場所で決着を付けたい。そう感じさせるには十分だった。


「回復したら、庁舎内へ乗り込む。シャーロテに移動の気配がない」


「まだやるのですか!?」


「当然じゃ。暇人じゃからな。臆したなら帰れ」

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