第51話 - 転 -

「何か先見で見えてる可能性もある、任せてみよう」


「――に!?」


 オッドが驚きの顔と共に、足の関節を外す、突っ込む朝姫にしなる蹴りを放つ。難なく交わし、回り込む。オッドが着地し、今度はすかさず回し蹴りを放つ。が、これも態勢を屈めて下に交わす。


 互いに向き合ってオッドが鉤爪を構える。朝姫も近接の打ち合いの際に見せる前傾姿勢で匕首を構える。


 オッドが思考する。

 ――――後衛の巫女じゃねえのか? どんな身体能力してやがるんだ。結界から出てきて、さらに俺とマッチアップするとは?


 その展開にユミ、カーリも驚きを見せるが、作戦配置があるのか動きはせず。ベーリットはガードの方を見据えている。やはりオプションの発動を注視している。


「キアッ!」


「ふん!」


 オッドの双爪左右が襲い掛かる。ステップで後方へ交わす。すると追撃の関節外しの蹴りが来る。


 ガッ!


 両腕を交差させ、蹴りを防ぐ、ブワっと浮かされる。しかし着地から一足飛びでオッドの懐へ飛び込む。逆手の匕首を喉元へ突きに行く。


 ――――はええ!


 足が戻しきれない。オッドも匕首の一撃を鉤爪でなんとか防ぐ。


 ――――簡単にぶっ刺さってはくれんようじゃの。


 ――――冗談じゃねえぞ。こんな巫女がいてたまるか。


「……私達も何度もオッドと戦いましたが、参考になりますね」


「ああ。初見でこれだもんな」


 通常はオッドの蹴りを防御した場合は距離が離れやすく、その後の関節外しのミドルが嫌なので、後退か側面に展開する。しかしまさか飛び込み直すとは。結界内の3人が関心する。


『オッドの援護へいきますか?』


『……難しい。固まった3人の動きが読めない。配置を動かせば必ずなにか狙ってくるはずだ。時折スキを見て魔法を撃て。ポジションは動くな』


 ベーリット側のサイン交換が見える。ガードたちは朝姫を仕向ける以外なにも打合せはしていない。


「ラァ!」


 連続の前蹴りが放たれる。関節は外さない。独特のステップで左右へ交わす。

異様に速い上にサイズの小さい朝姫のショートレンジを嫌がり、ミドル主体の蹴りでオッドが間合いの主導権を握りに行く。


 オッドが思案する。

 ――――うかつに足の関節外しは撃てねえ。さっきの攻防で、カウンターの飛び込みが間に合うことが分かっちまった。威力は劣るが、軽い分ガードやエスティナより初速がはええ。


「ん? アンナ! オッドにクナイを投げろ」


 ――手を使わせてやれば朝姫は速度差で刺せるとみた。


 言うと瞬時にアンナが複数本具現させ、投擲する。が、


 シュパパパパパッ  チャリチャリチャリン……


 見えない糸で全て撃墜される。


「それはやらせませんわよ? さあ、結界から出ていらっしゃい」


 ユミに睨まれた状態では無理のようだ。


「行け!」


 カーリから朝姫へ火龍が仕向けられる。結界の耐久削りから方針転換をした。


 ――!? クナイはユミがいるから脅威でないと見られたか。

 

 火龍をコントロールする術士のカーリを攻撃する手段がない。結界から出れば糸が飛んでくる。


「む?」


 中距離からブレスが撃たれる。朝姫は大きく跳躍で交わす。が、それではオッドまで飛び込みできなくなる。攻撃ラインをキャンセルした。


 ――――ちったあ考えてくれよ司書殿さんよ。


「ブレスは要らねえ! 通常攻撃だけにしろ!」


 カーリがコントロールする。牙と爪の攻撃が襲い掛かる。


「ギアアア!」


 ――――さあ、火龍を対応するならスキを見て急所に叩き込んでやる。


 オッドが構える。


「ふん、愚物が。降龍の舞」


 反対側の手に持つ鉄扇を開き暴風を巻き起こす。火龍が庁舎の壁まで吹き飛ばされる。


 ドカンッ 「ギャアア!」


 そのまま中距離まで離れていたオッドへ向けて、かまいたちも2発放つ。オッドはステップで交わす。かまいたちはカーブして火龍へ向かう。


 ズドドン! 「ギャオ!」


 硬いウロコに傷が入った。


「チィ……」


 ユミがイラだちを見せているが、それはガード達も同じだ。


 ――ここは我慢だ。何もできないが、ユミもベーリットにも何もさせず拘束できているのは大きい。朝姫対オッドの形勢は悪くない。


 タタタタッ


 オッドがこちらに走ってくる。すぐに朝姫が雷撃を放つが、そこはベーリットが土の壁を地面から盛り上げ、避雷針のように電撃が逸れ、相殺してしまう。


「?」


 オッドの動きにしばし疑問の顔の一同だったが、最初に気づいたのはユミだった。ニヤリと笑う。


 ――そうか、こっちが結界から出ないなら、戦場をここにしてユミと2対1にしてしまおうってわけか。


 だがそれでは朝姫が戦わず、陣の内に入ってしまえば再び膠着状態だ。が、それを防ぐためにユミが先回りし、陣の前へ出て朝姫の経路をふさぐ。すなわちガード達には背を向けている。そこまで自信があるのか。


 しかし、それを見たら朝姫は陣側には戻らず、壁を駆け上がり、なんと、ベーリットを狙い始める。


 !


 ついに戦局が変わり、ローテーションが起こる。


「失策だったな。傭兵」


 だがその目はガードを見ていた。『狙え』そう言っていた。


「叔母上!」

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