第50話 - 陣 -

 陣を飛び出し、カーリに向かう。横目で確認すると、エスティナとオッドはそのまま相対している。グリフォンを落とされたアンナもオッドを狙う。


「陣の形成は許したけれど、そこまで大技を連発して、そのまま持つとは思えませんわね」


 ドン! ズガン!


 上から結界に向かってベーリットの魔法が打たれる。ただ受けているだけでは耐久を削られるのみでジリ貧だ。朝姫が札を放つ。数十枚に分かれてユミを囲うように襲う。


 スパパパパパッ


 しかし見えない糸で札はあっという間に全て粉々にされる。


「ちっ、根本的にこちらは火力不足じゃな」


 ガードはカーリを襲いに行ったが、火龍を呼び戻され対応される。ウロコが硬く、ナイフが通らない。ベーリット派の動きが鈍る。初手がうまくいかず、サイン交換が行われているようだ。


 瞬間、ユミが急にガードに向き直り、仕掛けを行う。ベーリットの魔法もガードへ撃たれる。


 ッ!


 パンッ


 朝姫が一泊打つ。球状の結界がガードの周囲に発生し、全ての攻撃が弾かれる。


 ――死ぬかと思ったぜ。


「戻れ」


 陣に入れと促される。まずはガードから落としてやろう、という相手側の策だったようだが、単調なので朝姫が対応した。陣内に後退する。


 カーリとユミも、火龍だけ残し、転移で上のバルコニーに居るベーリットの元へ向かう。オッドも壁を蹴って戻る。エスティナとアンナを呼び陣に招き入れた。


 戦型が拮抗したため、小休止の様相だ。


・・・


 軍議となりベーリットが話し出す。


「神来社の陣が強力すぎる。まるで攻撃が通らない上に、遠隔で結界も張れる。このメンツで攻撃できないとなると……。そもそもなぜあの女が我々の邪魔をするかもわからぬ」


「正直、八式の陣相手では、同じ八式使いが居なければ正面からの攻略は無理ですわ」


 この国には、八式の使い手自体がいない。そもそも世界にも数人しか居ないと言われている。


「どうすんだ? 俺のほうも2人相手じゃ決め手がねえぜ。もともと互いに手の内を知る仲同士だ」


・・・


「回復を頂いてありがとうございます」


「向こうは時間稼ぎじゃないのか? 陣の効果切れを狙っているんじゃ?」


「くくっ、安心しろ。今日に限っては陣は永久に維持できる。まあ普段でも30分は持つが」


「ん? なんでだ? そんな都合のいい陣なのか」


「昨日札をお前の家に貼らせただろう。あれでエル=スラルの無尽蔵の魔力を貰っている」


 !


 なんとも抜け目がない。今日は祝日だがエルが外出したらダメではないのだろうか。


「魔力は深夜からストックし続けている。貯蔵は十分じゃ」


 ――だから普段よりエルの魔力が少なく感じたのか。


「大輔やマリーヌはどこだ?」


「すまない。作戦は教えられない」


 アンナが答える。こちらがいつ裏切ってもいい条件の同盟ではそれ以上聞いても難しいだろう。


「……カベヤマさんを殺しましょう」


「……はい?」


 ――ちょっと? 何でも適当なこと言えばいいとか思ってない?


 なるほど、こちらの回復手段は多い。OPプットで強引に誰かに致命傷を与え、ガードを回復させ、戦力差で押し切る策か。と、朝姫が思案する。


 ――いや、思案するな。そんなもん。というより、


「無理だな。それはもう考えた」


 ベーリットの配置を見れば、明らかに対策されている。一度朝の朝姫の結界の解除に動いていたが、本命は四式の解除に専念しているように見える。いつでもOP発動を解除してくる。


 ユミの糸に個人で対応できるのは朝姫だけだ。エスティナもユミを倒すために準備はしてきたが、極力緊急時以外は温存したいと言う。


「よし、俺ら3人は結界内でボケっとしてる。朝姫、お前は得意のドスでオッドをぶっ刺しちまえ」


「カベヤマさん? なんでも適当なことを言えばいいとか、思っていませんか?」


 ――こいつ、ブーメランて知ってるか?


「ま、それでいくか」


 朝姫が匕首を具現させる。


 ――いくのかよ。


 4人で上を見上げた瞬間、ベーリット側も即座に魔導士2人が下へ、オッドが飛び降りてきた。


 ――相手の配置は、変わらず、か。まあ攻略していないのに、変えるはずもない。


 朝姫が飛び出す。オッドの落下点に向かている。


「ちょっと、ほんとにやるのですか!?」

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