第49話 - 舞 -
-決行日-
午前の段階で、前日と同じ場所へ行く。
!
朝姫の姿に驚いた。魔力が充実している、なにより、普段の長い黒髪を後ろで一つに縛り、ポニーテール状に、ラフな格好でなく巫女服を着用し、裾はやや短い。しかし上半身は白ではなく黒に近いダークグレーだった。あくまで目立たず動き回るスタイルだ。
「少しドキっとしてしまった」
「私もな。前日と同じ恰好で来るとは思わなんだ」
――準備はしてるっての。女と違ってそう化けないんだよ。
「先に教えろ。今日の結末を。先見で見てるんだろう?」
「ダメじゃな。そんな万能な代物ではない。個々の思惑が錯綜するときに星は見えぬ。対してお前のようにボケっと生きてる人間は見やすい」
「……」
移動を始める。西区庁舎から城への道、といっても、ほぼ隣同士なので、場所は限定されている。庁舎と城の間、50メートルほどで日陰も多い。休日で人通りはなし。2人で物陰へ隠れた。
!
対照的な位置で隠れる、エスティナとアンナを感知する。向こうもこちらに気づいたようだ。合流はせず、現在の位置どりをキープする。大輔やマリーヌの姿はない。別動隊か。
・・・
かれこれ2時間経った。12時を30分以上回る。動き、なし。
「完全に時間を外されたな。日にち自体すらずらされたんじゃないか?」
「かもしれぬ。シャーロテの気配は庁舎内のままじゃ」
「通信は?」
数日前からシャーロテは荷物を没収されているようで本人との連絡は取れないという。
ブワンッ
その時、庁舎全体の結界が施行された。元々結界はあったが、さらに強化された形だ。
「ちっ、シャーロテが感知しにくくなったの」
「キッハー!」
カキンッ キンッ
!
向こう側で掛け声と打ち合いの音がした。朝姫と2人で飛び出る。エスティナとオッドが鍔迫り合いとなっていた。アンナが襲い掛かろうとしている。
「ヤロウ!」
「出るな!」
ビシビシビシッ!
目の前にすさまじい風圧を感じだ。
「――こちらも、かまってくださいまし?」
――ユミ=マーガリン! あと数歩出ていたらバラバラだった……!
「なんてラッキーなのかしら。この女を輪切りにできるなんて」
朝姫を見据えている。ガードなど眼中にないようだ。そのままの君でいて欲しい。
ボンッ!
遠方にカーリを確認する。ミニドラゴンの火龍を召喚していた。ミニといっても3メートルほどもある。羽ばたいて飛翔も可能だ。
庁舎の上のバルコニーにベーリットも現れた。近衛騎士2人が守っている。彼女は幻術使いだが、手の届かないあの場から撃ちまくる算段か。
「どいつも魔力たっぷり準備万全てか。ていうかベーリット派は勢ぞろいか」
庁舎へ向いて、中央左にユミ、左辺奥にカーリ、右辺にオッド、右上4F付近のバルコニーにベーリットと護衛の近衛騎士の布陣だ。固まらずバラけている。個の能力に自信があるようだ。
ユミの射線上にカーリが被っている。カーリを狙わせず召喚で好き勝手させる気だろう。
ボンッ!
アンナが召喚玉を使いグリフォンが現れる。かなりの魔力の個体だ。カーリのミニドラゴンをはるかに上回っている。事前に準備したものだろう。飛び乗って上のベーリットを狙いにいく。それを見てユミが上空へ手をかざした。
ヒュンッヒュンッ
グリフォンの首に見えない糸が巻きつく。ぐいっと引っ張られた。
「グエエエエ!」
制御を失い慌ててアンナが飛び降りる。首から引かれたグリフォンはグイグイとユミに引き寄せられる。引かれながらも嘴に火炎の大玉が集束する。ユミに放つつもりだ。
「ツイストスレイド」
ズババババババンッ! ブシャッ ボトボト ドササッ
一瞬だった。巨体のグリフォンがバラバラの輪切りにされ、落ちる。光とともに肉片が消え去る。
――なんて技だ! ありえねえ、初見でもヤバイと思ったが、あの上位種の魔獣がこんなにあっけなく!
「しばらく離れるな。陣を作る」
朝姫が手を合わせ集中を始める。
「させると思いまして?」
すぐにこちらに向き直ったユミの手が複雑に動く。
――やべえ!
「ふん」
パンッ
ブチブチブチッ
朝姫が一泊打つと、周囲で見えない糸が寸断されたような音が鳴り響く。
「チッ!」
カーリのコントロールでミニドラゴン飛んでが襲い来る。火龍だ。口から火が漏れている。ブレスを撃とうと振りかぶった。
「八卦貴神結界」
パンッ
また朝姫が一泊打つと結界の陣が形成される。炎のブレスが結界を通過できず届かない。
「解ッ!」
ベーリットが上空から結界の解除を放つ。が、
「お前には無理じゃ」
「くっ、八式の結界か!」
八式以上は八式が解除できる人間にしか解けない。四式までは、一式可能者なら4人、二式可能者なら2人と、その数字分の人数を揃えれば解除が可能だ。ベーリットが扱えるのは四式までのようだ。ガードのオプションは四式のため解除される。
ズバババババンッ!
ユミが糸で結界の耐久を削りにくる。火龍も二度目のブレスの構えに入っている。
「降龍の舞」
初めて、朝姫がまともに鉄扇を開く。ススっと軽く振って見せた。すさまじい竜巻が発生する。ユミと火龍が煽りを受け、吹き飛ばされる。
「うっ!」 「ギャオォ!」
「フッ 紫電の舞」
ブワッ!
再び鉄扇がひらりと舞う。結界内に光の回復陣が出来る。
「もう出てよいぞ。好きに暴れろ。傷ついたら陣に戻れ。紫電があるうちは徐々に回復する」
――なんだこいつ、マジでつええ。あのユミと火龍付きでも手出しすらできない。
「よし、糸と火龍は頼むぞ、カーリを直で叩きに行く!」
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