第41話 - フィアスレイド -
胸に手をあて、片や前に出し、オペラ歌手のようなおかしな演技をする人間が現れた。
周囲も一瞬止まり、なんだ? といった様子で振り返る。
「な、ユ、貴殿は――」
カーリが驚きの表情を浮かべる。続けざまにガード側の陣営も驚愕する。ツインドリルのロリータ風味のドレスを着た子女が現れた。
――こ、こいつは!? 裁断者、ユミ=マーガリン!? 国内の若手最強とか言われている貴族だ。なぜここに?
「はぁぁ、まだ終わっていないとは思いませんでしたわ。まったく、なにをやっていますの?」
「チッ」
オッドは不満げに目を逸らす。興が覚めたと言わんばかりだ。
スッ
ユミが傭兵と衛兵の小競り合いのほうに手をかざす。そして不規則に指が動いた。
ズバババババン!
「があ! ぎゃああああああ!」
バタバタ……
!
残り5人の傭兵が、一瞬でなます切りのように切り刻まれ、倒された。
――あれが、見えない糸! 甲冑すら粉砕している。10メートル以内で致命傷、5メートル以内で必殺との噂だ。まずい、こいつ一人で戦場の一軍隊に匹敵するとまで言われている。この状況ではどうにもならない!
「さっさと終わらせましょ? 抵抗してもしなくても、所詮あなたたちに逃げ場はなくってよ」
不意に、中から数人の子供たちが出てきた。目の前で小競り合いしていた味方がまとめて倒され、
「やめてよ! もう、わたしたち、出ていくから!」
「んー?」
「あなたたち、出てきてはダメ! 入りなさい!」
エスティナが叫ぶ。すると女子が駆け寄ってきた。
「お姉ちゃんっ ケガしてる、大丈夫?」
「ミサキ! 来てはダメ!」
――瞬間
ズババババン!
プシャッ ボトボト、ドサッ
エスティナの目の前で、女の子が輪切りのバラバラの肉片にされた。
十数個の肉片が無残に転がる。
花冠をくれた娘だった。エスティナに返り血が飛ぶ。
「――汚染者が、国民に触れてはなりませんわ」
「あ……、あ……」
――なんてヤロウだ!
「き、き、貴様ーーーーッ!」
エスティナが突っ込んだ。
「バ、バカッ!」
「ふん」
「チィ!」
エスティナ、ガード、ユミ、アンナと表情が一変していく。アンナが急いで数十本、指に挟めるだけめいっぱいのクナイを発現させ、ユミに投げ込む。ユミは手を動かし、見えない糸でひょいと西区の衛兵一人を持ち上げる。
「え? うわああああ」
衛兵はあっという間にユミの目の前に運ばれる。
ズドドドドドッ
「ぐああああ!」
アンナのクナイが衛兵に突き刺さる。クナイの雨が止むと、
そのまま突っ込んでくるエスティナへ衛兵を放り投げた。
ブンッ ドカッ!
「きゃあ!」
・・・
「ケッ 勝手にやってろ」
オッドは吐き捨てると武器を消し、
ポケットに手を突っ込み背を向けて歩いて帰っていく。
「どれ?」
ユミが端的に訪ねると、衛兵が駆け寄って応答する。
「――と、――番目です」
ズバンッ ズババンッ!
一瞬で、3人の子どもの首が吹き飛ぶ。返り血を浴びた、何もされなかった子どもが4人残ったが、真横の惨状に瞳孔が開いて動けない。
――途中参加のくせに良く見てやがる!
盾にされた西区の衛兵は、終始常に後ろでうろたえていただけで槍すら出していなかった。攻撃も針をも通す的確さだ。
「カーリさん? 指揮はあなたですわよ?」
カーリはハッっとして指示を出し始める。
「衛兵! カベヤマとエスティナ=ローバー、アンナを捕縛せよ! 残りの者は施設を制圧し抵抗した職員を拘束せよ!」
ボンッ
アンナが煙玉を使う。屋根に駆け上がって逃げて行った。
エスティナは動けず、拘束。ガードも抵抗せず捕まった。
――ここまで、か。
・・・
「ユミ……、助かった。だがなぜ貴殿が」
「もう、しっかりしてくださいまし? ハーゲン家でしょうに」
ガード、エスティナは縄に付き、捕縛された。西区の牢へ連れていかれるのだろう。当初互角かやや優勢に傾いた戦局は一変した。ユミ=マーガリンの一人の登場により、施設防衛側は壊滅。敗北を喫した。
カーリ、ユミ、衛兵とぞろぞろ移動を始めた。
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