第40話 - 衛兵VS傭兵2 -

 初手から高速の展開でガードとオッドが交差し、

そのまま駆け抜け合い、振り向く。


 ――よし。前回のような疲労が無い上に強化でパワーはこっちが上回る。十分やれる。


 カーリに対し、アンナが直接狙い、ゴーレムをエスティナが両手ハンマーで迎撃する。


「ハッ ガード、やるじゃねえか。今日は分がわりいか」


 ――コイツ、さすがだな。一合しただけで力量を把握した。完全に一流の戦士だ。だが、その前に。


 ダンダンダンダン!


「ぐあ! がああ!」


 適当に4発撃って西区の衛兵3人を拳銃で撃ち抜く。


 !


「ダメじゃないかオッド。お前が俺から間合いを空けたから、衛兵が3人死んだ」


「キッハッハ! いいぜえガード。だが心配無用だ。衛兵は俺の駒じゃない」


 ――もちろんわざと一発残した。オッドに拳銃の存在を意識させるためだ。ソロなら難なく交わす奴だが、よそ見はできないはずだ。


「いくぞ……お前と何度もやり合うのは『異常』だ」


 ッ!


 再び互いに前進してカチ合う。いつしかのように両手のナイフと鉤爪が絡み合う。


 ――オッドとやりあう限りこれが基本系だ。


 そして――


 やはり蹴りが来る。リーチ差でオッドに分があるため、

この組み合いはあらかじめ読んでいても不利になる。


 組み合いを解き、両腕で防御する、バネのある蹴りで大きく後退させられる。

壁際まで来ていた。


「ふっ!」


 真後ろの壁を蹴り、上の淵をさらに蹴り、大きく上へ跳躍する。


「キシャア!」


 瞬時にオッドも反応し、路地の向かい側の壁へ、ガードと同じ動作で跳躍する。

空中で2人は交差、には到底及ばす、バネの跳躍力でオッドがはるかに上に行く。


 ――だが作戦通りだ。オッドは上を取られるのを嫌って、この形に持ってくると思っていた。


 ガードは急ぎ着地し、拳銃を抜いて振り向く。オッドはまだはるか空中だ。

ハッとして、頭と心臓をかばうように防御姿勢となる。

空中では移動軌道を変えられないためだ。


 しかしこれもフェイクだ。

オッドの防御姿勢を確認したところで、一気に落下点へ詰める。


「なに!? キアッ!」


 苦し紛れの蹴りがオッドから放たれる。が、もうこれは防げない。


 ザシュッ!


 難なく交わし、オッドの脇腹へナイフの斬撃が入った。

捻り動作で軽減されたがまずまずの手ごたえだ。


「グッ、痛うぅぅぅ!」


・・・


 チラリとエスティナ、アンナとカーリ側を見る。カーリがゴーレムの扱いに苦慮していた。こちらが優勢のようだ。


「ヤロウ、ガードォ……」


 実力はほぼ五分か、ややオッドが上に思える。だが大きな差は聖職者の強化だ。とくに拮抗した戦いほどこれが顕著に出る。


 ――強化の効果は約3分。まだあと1分はある。しかもエスティナには再強化の施しの打合せもしてある。


「ガード、わりぃが、今日は譲る気がねえ」


 前回はお前の勝ちだっただろうと言ってやりたかったが、何かを懐から取り出した。そして食べた。


「カリッ モグモグ」


 ――!


「キッシャー!」


 一瞬、筋肉が一回り大きくなったように見えた。


 ――強化丸薬か!? そうとう鍛錬してる人間でないと使えないが、こいつならありえる。


 突っ込んでくる。


 ガシ!


 また同じ組み合いだが、明らかにパワーバランスが逆転していた。


 ――こっちの強化よりも、かなり上回っている! 普通の強化丸じゃないな。


 まったく同じ蹴りが来る。そして同じように防御するが、


 ドンッ!


 先ほどと違い、壁まで背中から吹っ飛ばされた。


「がはっ!」


「キシャア!」


 追い打ちの鉤爪のストレートが来る。なんとか側転して交わす。


 ガツンッ


 壁が抉れるどころか、穴が開いた。


 ――クソ! なんてパワーだ! だがこんな強化じゃ副作用も強いはずだ、長く続くはずがない!


「シッ!」


 ガードから連撃を繰り出す。同じ展開は避けたいため組み合いを拒否し打ち合う。

しかし打ち合いでもパワーの差で押される。


 たまらずバックステップして拳銃を抜く。もちろんフェイクだが、

何かのスキを作りたい。オッドは先ほどのように、壁を二段蹴りで空中へ回避する。


 ――なに!? それじゃさっきの展開と同じじゃないのか?


 銃を向ける。だがそれが拳銃は撃てないと読んでのオッドのフェイクだった。

関節を外した非常に長いリーチの横蹴りが放たれる。


「ぐあ!」


 腕で防御するが、体ごと浮かされる。そして路地と並行に吹き飛ばされる。


 ズザザザザザッ!


「が……は……」


「カベヤマさん!」


 エスティナのすぐそばの戦場まで、15メートルほど飛ばされた。想像以上に全身が痛む。ギリギリのところで防御の強化が切れていたのだ。


 オッドはまた懐から丸薬を取り出し、かじる。すると肥大した体格が元に戻った。


 中和して戻したようだ。ダメージの差分で、もう押し切れると判断したということだろう。リスク管理のバランスも取れている。


 技量に差は無い、が、エスティナといい、オッドも、常に攻撃が急所狙いだ。捕縛が基本のガードとの実戦経験値の差が、あきらかに現われた。


 ――認めてやる。オッド、殺し合いではお前が強い。だが――


 オッドと距離があり、エスティナに近いこの配置、アレを狙う。


「エスティナ、打合せの強化、あれはやめだ。代わりに3秒後に回復をくれ」


「え?」


 ――オプション・プット、1秒後だ。


 シュンッ


 ガードは左のナイフで自分の右の腕を突いた。


「ぐっ!」


「カベヤマさん!?」


 ――ゼロ。


「があああああああ!」


 オッドが右腕を抱え昏倒する。


 エスティナから即座に右腕の治療を受ける。完全とはいかないが、痛みはおおよそ緩和され7割程度は動くようになる。


「あとどれくらい法術が使える?」


「私は魔蔵値(魔法の使用回数の容量)が高くありません、大きな回復なら1度、強化と解除なら2度が限度です」


「わかった」


 カーリがアンナと距離をとり、オッドの側へいく。アンナも強化が切れ、一度こちらへ後退する。この一帯は落ちたクナイの量がすさまじい。


「オッド、私ももうあまり魔力を残していない。今日は引くしかない」


「うるせえ! 勝手にしろ、俺は今日、ガードだけは潰していく」


 額から汗を流し、腕を庇いながら尚もガードを睨むオッド。


 そこへ――


「やめてくださいまし! もう争いはごめんですわ!」


 !?

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