第39話 - 決意と義理 -

 エスティナは数日前よりは、顔色が幾分マシになったようにも見える。会話はするが、施設の一件については話題を避けられていた。しかし期限は迫る。やむを得ず話を振ってみた。


「施設の件、どうするか、決めたか?」


「……」


 この件が終わり次第、衛兵に復職するつもりであることを伝える。エスティナには空き家の恩もあり、極力協力したいとは思っている。


 ――南区での生活。これが無ければ、自分を見つめ直すことができなかった。俺はもうブレない。本来の自分やエルが正しかった。まあエルの場合はドウターかどうかというより、悪い人かどうかで決めている節もあるが。


 一級神の意向から掛け離れたことはしていないだろう。ある意味、判断における一定の基準ではある。


「この斡旋までは、どんな決断でも、お前の方針に付き合う」


・・・


 施設取り壊し、当日となった。ようやくエスティナが重く口を開いた。


「……行き場の無くなった子供の数人くらいは、ここへ連れてきたいと思っています」


 ――無茶だ。誰がどんな環境か知らないが、たくさんいる中で、取捨選択ができるとは思えない。そしてそのままここで養えるとも思えない。さらにこの先も発現した場合はどうするのか。


「不可能に近いとだけ言っておく。だがお前がそれでいいなら、この件までは同行する」


 施設の館長が、案の定、立ち退きを拒否しているらしい。最終時刻までもつれるだろう。館長と教会はよしみも深い。エスティナが賛同するのも無理はない。


「確認するぞ」


 おそらく3つの勢力が存在する。


 ドウター完全否定派。表向きな国の方針、ガードの立場でもある。

 ドウターの存在は容認、汚染者は否認。ベーリット派。現状の国の実際に近い。

 ドウター、汚染者、どちらも容認。不明勢力。アンナの暗躍。


 そしてもう一つ。


 ドウターは容認するが、異魂の抽出の是非で派閥が分かれるはずだ。おそらくこの辺りでフローラとベーリット派がぶつかっている。


「俺すげえタカ派だったんだな」


「……現場は3つ巴、ということですか?」


「いやそれはない」


 施設の取り潰しのみなら、完全否定派とベーリット派は一致する。この2派は組んでくるか、完全否定派は居ないかのどちらかだ。


「1時間前だ。行こう。考えが変わったら、言ってくれ」


・・・


 家を出るとすでに施設方向はやや明るく、声も聞こえていた。走って現場まで行く。


「ち、我慢できずにもうおっぱじめたのか!?」


 施設、空き地付近に到着した。かなり人が多い。兵隊もいる。光術の照明魔法弾も打ち上げられ、ライトの役割をしており近辺の視界もはっきりしてくる。


「ガード、おせえぞ。まあ間に合ってはいるがな」


 !


 ――オッド、カーリに西区の衛兵が数十人か。厳しすぎる。


 ベーリット派だ。国が資金を使って参戦することはない。つまり西区の衛兵はベーリットの私兵ということだ。

 

 館長がすでに手傷を負って、施設の壁にもたれかかっていた。他に防衛に雇ったと思われる傭兵が10人程度で何人かがすでに倒れている。アンナの姿があった。臨戦態勢だが戦闘した形跡はない。子供たちは施設内に退避しているようだ。


「で、ガード、どっちに付くんだ?」


「……俺は全否定派、らしい。ここに仲間はいないが、今日はエスティナに全て預けてある。そっちに聞いてくれ」


 返事を聞き、オッドがエスティナに向き直る。


「……子供たちだけ、見逃してください」


「それはできねえ。中にもうドウターや、汚染者も混ざっていることを確認している。今日、全員捕縛、処刑だ」


 !


「そんな! 全員とは!? 普通の国民もいるのですよ!?」


 オッドを制し、カーリが出てくる。


 期日までにここを出るように、何度も通達を行った。職員を何人も派遣し、丁寧に子供でも分かるように説明し、そして本日に至った、代替の施設も用意している、ということだった。

 

「もはや、自分の意思で残っている者しかいない。覚悟は、できているだろう」


 入口付近まで子供が出てこようとしていた。傷ついた館長を、庇おうとしている。


 エスティナがこの施設にこだわる理由は自分の経験からだろう。苦しいときも同じメンバーで支え合ったからこそ、折れずに進めたのだ。施設が変わってバラバラになってはいけないのだと。


 法術からエスティナの二刀ハンマーが具現した。そして――


 ベーリット派に向き合った。


「と、いうわけらしい」


 ガードも双ナックルナイフを取り出した。


・・・


「カベヤマガード、あなたと共闘することになるとは。礼はいっておく」


 アンナが話しかけてきた。


 ――先に姓を呼んだな。ドウターの特徴だ。大輔もそうだった。


「じゃあ教えてくれ。どこに雇われてる?」


「……」


 答えるはずがない。これが終わればガードは最も強硬派の敵だ。


「強化の法術をくれ。俺がオッドとやる。2人でカーリと後ろの衛兵を」


 コクっとうなずいた。


「おいおいガード、逸るなよ。まだ0時じゃねえ」


 あくまで時間までは交渉中ということか。チラッと館長を見る。おそらく倒れていた傭兵共々、我慢できなくなって突っ込み、返り討ちにあったのだ。


「ふんっ」


・・・


「オッド、カベヤマの技能は分かっているな? 場合によっては即死もあるえる。油断はするな」


「キッハッハ。あんたがな。司書殿」


 0時の2分前、向き合った勢力互いに準備に入り出す。最前衛を務める3人にルイ・ナージャの攻撃、防御の強化がかかる。参加している傭兵には西区の衛兵を押えてもうらうように打合せをした。


「司書殿? これで少しは親しくなれそうでありますか?」


 また軽口を叩いておく。さきほどから敵味方から司書司書言われ気分がよくなさそうだ。実際内務官が現場にいることで周囲に舐められている感が否めない。


「カベヤマ一等兵。安心しろ。お前は明日の日を見ない」


 ――0時。


「時間だ。これより、強制退去を執行する」


 ドンッ! ゴーレム2体がカーリから召喚される。


「キッハー!」


「シッ!」


 ガガッ!

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