第38話  - 正統派 -

 休日、久々にセスにメシに誘われたのでついて行った。


「今日は俺が全部おごる。気楽にやってくれ」


「は? マジかガード。お前休職中なのにそんな余裕あるのか?」


 城内勤務に変わった際、意味不明な告げ口をした詫びとは言い出せなかった。普段よく行くファストフードに入る。


「ワハハハハハハハ!」


「そしたらよ、その預かり品間違いの件で、娼館もう一発券もらっちまったぜ」


「ぎゃははははははは!」


「俺なんかフローラ様のパイオツに顔突っ込んだぜ」


「おまっ それ試合の事故だろ」


「あれからもう一回やったんだよ」


「さすがに嘘クセー!」


「あひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!」


 そこへ――


「――君たち、もう少し静かにしてくれないか?」


 後ろの席の優男が振り返り、注意をしてきた。黒髪のイケメン基調でなんとなく気に入らない。


「あ?」


「なんだテメー。主人公みたいなツラしやがって」


 とりあえずガンを飛ばしておく。


「周囲の客も迷惑がっている。度をわきまえて欲しい」


「あーん? ちょっとくらいいだろ? 俺たちがこの国を守ってやってんだぞーん?」


「まったくだ。ん? おいセス、コイツ、認可じゃないか?」


 認可国民。あの日、シャーロテが目指し、成し得なかったものだ。本来は捕縛や討伐の対象であるドウターながら、こちらの住民と婚姻関係となり、国民の権利を得た者。


 ――俺たちの最も嫌う存在だ。


「……」


 2人で目を合わせた後、そのまま会計を済ませ店を出た。


・・・


 数分後、優男が店から出てくる。ガード達は待ち伏せしていた。


「おい」


「ん? 君たちはさっきの……」


 舐められたまま帰るわけにはいかない。”勤務外なら無茶もする”。宰相が指摘したのは伊達ではない。


「認可の分際で何意見くれちゃってんだよ。詫びて土下座しろ」


「わはははは!」


「……認可の分際、さすがにそれは差別にあたると思うが」


「名前知らねーから仕方ねえし?」


「……僕はシュルーサー=大輔。たしかに認可国民だ」


「……プッ」


「あー? なんだって? 聞こえねえな」


「わはははははは! ねーよこの国にそんなイントネーション。芸人かよ。異常ありました!」


「……僕をバカにするのは構わない。だが恩義のある、シュルーサー家への侮辱は取り消してもらおう」


 拳にぐっと力が入るのが見えた。


「なんだ? やろうってのか? おいセス、こいつに身のほどをレクチャーしてやろうぜ」


「さっさと地面にキスしちゃおうねえ僕」


 ボカチボカチボカチッ


・・・


 ガードとセスは地面を舐めて這いつくばっていた。


 ――なんだこいつ、つええ。俺とセス2人相手に……。


「僕は城に用があるので失礼するよ。懲りたら少しは改めてくれ」


「クソがー! 覚えてやがれ!」


 身体を起こしながら捨て台詞を吐いた。


・・・


「ちくしょう、このままじゃ引き下がれねえ。おい!」


「ああ」


  ――ドウターめ。これが普通と思ってるなら大間違いだ。異常はないんだよ。現実を教えてやる。


 ガードとセスは散っていった。


・・・


 数時間後。城から帰ってきたと思われる、大輔がこちらに向かってきていた。


「きたぞ!」


「……君たちは」


「おいっ、さっきはよくもやってくれたな。2人でやられたからな。今度は5人だ」


 仲間を連れてきて待ち伏せをしていた。


「いつかやりたいと思ってました」


「えー? なにこれー? アタシ今から美容室なんですけどー?」


「私の舎弟をかわいがってくれたようじゃな」


・・・


 セスが後輩衛兵2人を、ガードが朝姫を連れてきていた。


 ――いつ舎弟になったんだよ。てか朝姫、こいつ暇人なだけあってノリいいな。


「……いいさ。分かってくれるまで何度でも相手になろう」


 ボカチボカチボカチッ


 5人でリンチした。大輔はボコボコにされた。


・・・


-夜、シュルーサー邸-


「あら大輔さん、大丈夫?」


「あ、ああ。大分認知度が上がったとはいえ、認可国民の立場はまだ厳しい。少しずつ、分かってもらおう。しかし何やら、国賓様に似た人もいたが気のせいだろうか」


・・・


「はぁ、まったく、休日に遊びに行って、なぜボロボロになって帰って来るのか、理解できかねます」


 エスティナに大輔からの傷の治療を受けていた。


 ――え? なんかもうすっかりエスティナが嫁じゃね? いいの? このままゴールして? 住所不定、休職のまま?」

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