第42話 - 縄張り -
――ん? 遠回りせずに、東区をショートカットする気か? もしかすれば……
捕縛されたまま数十分歩き、じきに集団は徒歩で東区へ入る。ポツポツと夜の警備の兵がいた。
――頼む! 気づいてくれ!
ガードは警備の同僚衛兵に向かって仲間内のサインを出す。両腕がふさがれていても出来る、歩調の音を変えたものだ。
ハッっと衛兵の1人が反応する。一瞬こっちを見た後、駆けて行った。
――よし!
・・・
しばらく進むと、前方に数十人の東区の衛兵団が現れた。
「夜分、ご苦労様です。捕虜をお引渡しください。こちらで処理します」
!
カーリとユミはハッっとした。
「……気遣い、結構。こちらの事件だ。手間はかけさせない」
カーリは毅然とふるまうが、
「捕縛はもっとも近い管轄へ運ぶのがルールです。引き渡しを願いたい」
――運良くインテリのカキザキさんだ。うまくやってくれるだろう。
カーリ達は無言で来た道を引き返そうとする。が、後ろからも衛兵数人が詰めていた。挟んだ形となる。
「……チッ」
トンッ
カーリが合図し、ガードだけ引き渡しされる。これで手打ちにしろということだろう。カキザキがチラリとガードを見た。すぐにエスティナも頼む、と目で合図する。
「……捕虜が分かれるのは書面で手間なのはご存じでしょう。そちらも引き渡しを」
カーリは苦渋の顔、ユミもやれやれといった形相だ。エスティナも引き渡された。
・・・
縄に縛られたまま、久々の詰め所に入った。
「悪いなガード、一通り取り調べるまで拘束は解けん」
「こっちに連れてきてもらえただけで十分です。あ、牢屋はエスティナと同部屋でいいですよ」
「……」
――だめだ。普段の突っ込みどころか、目に精気すらない。
詰め所の牢で一夜を明かした。
・・・
-翌朝-
「ガード、出ろ、所長が呼んでるぜ」
簡易牢から出される。チラっと隣の部屋のエスティナが見えた。全く気力が無い。
「ガード、まーたお前か」
「所長、お疲れ様であります」
いつしかのようになぜかイスに縛られて座らされる。
「えーと? 南区の施設の検めに対しての公務執行妨害か」
「相手は西区の奴らですよ。無罪ですよね?」
「意味不明だがまあそれでいいか。おい」
ガードの縄が解かれる。苦笑した。所長も西区の連中が嫌いらしい。向こうが貴族側というだけで、出動率はこっちのほうが高いにも関わらず、こちらの給料が安いのだ。
「本日より、職務に復帰します」
「分かった。が、実際解放は宰相殿が呼んでいるからだ。行ってこい」
「はっ」
――マジか。また説教か。
・・・
登城する。遠くにフローラの姿が見えたが、直の呼びだしなので介さず行く。
「寄り道するか」
先にワザと司書室へ向かった。
「東区第二師団所属、ガード=カベヤマであります」
「どうぞ」
期待を外され、カーリではないようだ。
「ヒロイン好感度表を見せてください」
スッっと渡される。
好感度表(全5段階)
エル 💛💛💛
キャオル 死亡
エスティナ 💛💛
フローラ 💛💛💛
シャーロテ ?
朝姫 💛
カーリ 💀💀💀
――前回の表は第18話だ。俺は鈍感主人公と違い、平穏と安定のためにカンペを用いている。エスティナが激的な改善だ。上がりすぎな気もするが、ひとまずこれで殺されることはないだろう。
フローラは決闘以来、信頼度が上がったようだ。上がりすぎもよくない。ここで食い止めたい。
シャーロテは破談になっての評価だろう。だがなぜか不明となっていた。カーリは本当に候補に入っていた。昨日の今日だ。評価は言うまでもない。
・・・
――多くのヒロインとは戦いになっているんだな。戦っていないのはエルと朝姫……
どちらもバケモノだ。考えたくもなかった。
「カーリ殿はどうしたのでありますか?」
「ええと、大臣補佐官に赴任したようですよ?」
――なるほど。ここでの情報収集も潮時ってことか。
「司書殿も入りませんか?」
「死にたいのかゴラ?」
元ヤンキーのようでいらっしゃった。
・・・
コン コン
憂鬱だが宰相の個室へ行く。
「入れ」
「なぜ公務執行を妨害した?」
――挨拶不用のパターンか。厳しいのが飛んでくるな。憂鬱は杞憂にならずか。
「……知人への恩返しを優先しました。処罰は覚悟しています」
「ではなぜ無駄なことをした?」
他に恩返しの方法なんてものは他にいくらでもあるだろう。ということだ。
「無駄ではありましたが――」
「無駄ではあったが、片心は満たされた。か?」
「……」
「余興というのは過去に実績を上げた者のみが、余暇を過ごすことを許される。今のお前ではない」
「努力と苦労をはき違えるな。がんばっている”つもり”ほど、無駄なことはない。汚染者について報告せよ」
「……私には見分けがつきませんが、ユミ=マーガリン卿の反応からして、現地に居たと思われます」
「ユミ=マーガリンと戦闘したのか?」
「はっ」
溜息をつき、お前よく無事だったな、というような反応をしていた。やはり貴族の内でもその振る舞いは有名なのだろうか。実際アンナのクナイ攻撃の盾にされた衛兵は重症だ。
次いで、カーリの報告をする。魔力は高いが実戦経験は乏しいように見えた。アンナの強化の効果切れの際に追撃せずに引いてしまったり、うかつに東区をショートカットしてしまったりと、手落ちが目立つ。
ベーリット派はユミ=マーガリンという強力な人材もいるが、本来内勤のカーリを現場に出さざるを得ない、つまりマンパワーで不足しているのだろう。傭兵も斡旋で積極起用している。派閥の力は強いが、おそらく信頼できる人間が少ないのだ。
「ベーリット派、か。お前ともそんな話をするようになるとはな。人材不足は知っている。が、戦闘能力に関しては参考になった」
「ハーゲン司書官の手落ち。経験格差に等しい。これも社会問題だ。例えばお前は素手で木に止まるセミを容易に捕まえることができる。私もできる。カーリ=ハーゲンやフローラにはできまい。生活に全く必要のないスキルだ」
「しかしその他愛のないものの積み重ねが、やがて生きるか死ぬかの差にまでなる。その他危険だと言って経験させなかったことが、将来更なる自身の危険を招く」
――そんなの学校や習い事じゃ教えてくれない。簡単なことなのに、経験すらないから、できないか。
「アンナというメイド風貌のドウターをご存じでしょうか?」
散々説教されたんだ。1つくらい聞いてもいいだろう。
「確証はない。だが、シュルーサー卿が関与していると見込んでいる」
――ん? シュルーサー家の掃除という斡旋はなんなんだ?
「報告が以上なら、下がれ」
「カベヤマ」
敬礼し、踵を返したところで、もう一声かかる。
「私と神来社の言うことに、差異があっても取捨選択をするな。己の糧とせよ」
「……? はっ」
――なんで急に朝姫が出てきた?
・・・
――相変わらずボロクソ言われたが収穫はあった。ここからだと遠いが用は多い。斡旋所に行くか。
夕方近くになっていたが、斡旋所に到着した。
「ゼーブル=フォーグだ」
「はい。施設防衛の依頼は失敗ね。手数料だけいただくよ」
散々苦労してこんなもんだ。努力と苦労をはき違えた。
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