第32話 - 召喚する者 -
会場を出て、久々に会った衛兵仲間達と言葉を交わす。最近、休職状態のガードを労う声が多かった。さまざまな理由で、職務上どうしても長期離脱してしまう者は少なからず発生する。
散開し帰路につこうとすると、じきに物陰からフローラが出てきた。試合での別れ際、指定場所に立ち寄るように耳打ちされていた。立場上、目立つ場所では話しかけにくかったのだろう。
「ガードさん、本日はありがとうございました。ほとんど私の我が儘だったのに……」
「いえ、身体を存分に動かせてよかったです。でも最後、杖で突いていれば勝敗は微妙、ドローもあったかと思いますが……」
「一瞬でしたが悩みはしました。ですがあそこで突けば、”実戦”では自身も命を失うのではありませんか? それは正しくないように思いました」
なるほど、と納得する。内務官であるのに実戦を想定した試合をしていたことに、ガードもフローラへの意識の高さに敬意を持った。
「……まだ、出勤できていないようですね」
「はい。ですが1つやることがありまして。それまでは。気持ちはもう大丈夫です」
「ふふっ」
微笑むと、不意にフローラはガードの頭を抱え、自身の胸に抱き込んだ。
ぼふっ
「むお!?」
「今日のご褒美です。元々お好きのようですから」
――異常に心地よい。母性の溢れる人だ。
そのまま小声で話し出す。
「アスティ様のこと、焦らずとも、じきに知ることとなるでしょう」
ゆっくりガードを引き離す。
「それと、シャルちゃんの救出を決行しようと思います」
!
「そ、そうです、シャーロテはあれからどうなって、どうしてるんですか?」
シャーロテの身柄自体は無事だという。貴族の後ろ盾をなくし、ギャレンティンの性ははく奪され、単なる野良のドウターという扱いだ。
しかし能力の素質も高く教養もあり、単に処罰するよりも、国で召し抱えるほうが良いという意見がベーリットの周囲で出ているようだ。
「ですが、あくまで意見です。ご存じの通り、西区管轄では、全てのドウターが処罰されています」
国は基本的にあまり前例のないことは、行いたがらない。
「宰相はどうされているのでしょう?」
「父上は、当然処罰側です」
「え!?」
国民と婚姻関係になってしまえば、処罰できない。そのために、ガードとこの婚姻を破談させようとしていたのだ。
――救出のため、じゃなかったのか。ん?
「で、ですがそれなら、フローラ様も処罰側なのでは?」
「いいえ、私は厳密には父ではなく、アスティ様側なのです。父も当然それを知っていて、放置しています。親子といえども一から十まで掲げる政策が一致しているわけではありませんので」
「……?」
「ふふっ この辺りは少々複雑です。政界のつまらない話でしょう」
つまり少なくとも、宰相、ベーリット派、アスティ派と、3つ巴以上ではあるということだ。そして、あの朝姫も個別の目的を持っているかもしれない。
「ガードさん、父は”国の化身”です」
!
「父に賛同するか、道を違えるか、そこは大きな分岐点となるでしょう。もし、父と道を違えるなら、今度は私に雇われてください」
――まさか!
「フローラ様、南区斡旋所に個人で、依頼を出されていますか?」
フローラは意思を示さず、また微笑むと、立ち去っていってしまった。
・・・
南区の空き家に戻る。夕方を過ぎていた。
「戻ったぞ」
「……なんですか、その言い方は。まるで私が家内のようではありませんか」
「……」
――じゃあなんて言えばいいんだよ。
「ひとまず、明日から視察に行きましょう」
施設側が明け渡しを拒否すれば、強制執行の10日後、おそらくオッドらが出てきて実力行使になるとのことだ。そして十中八九、その展開となるとの予想だ。
-深夜-
――さて、昼間の感触を忘れんうちにフローラ様似のエロ本で一発抜くか。
「……ん?」
「――何か、音がしませんか?」
先に寝ていたエスティナも起きたようだ。2Fからパジャマ姿で降りてきた。というより、潔癖そうなシスターが平然と同棲していることに今更ながら驚く。
ゴォオオオオ!
!
「いってみましょう!」
雑に服を着替え表へ出る。明かに施設の方で音が聞こえていた。近づくにつれて、施設横の空き地のほうが明るい。
「くっ、もう来てしまった!」
声が聞こえた。2人同時に到着する。
!?
目の前に明らかに転移門が開いていた。そして、ドウターと思われる者が姿を現そうとしている。その横に門を開いたと思われる魔術士がいた。
「誰です!?」
「あ、あんたは……、司書殿、カーリ=ハーゲン!」
!
「お前は、カベヤマ? くっ!」
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