第31話 ‐ 決闘4 -

 ビー!

 

 中断からブザーが鳴り、再開となる。フローラと対峙しあう。体力ゲージは双方、半分をやや超えたあたりの黄色、五分だ。エルが退場したので、フローラはローブを通常のものへと変更した。


「ガードさん、あなたを倒し、自信を取り戻します」


「俺も教えてもらいますよ。皇女殿下の秘密を。何が正しいのか、見極めたい」


・・・


「いくぞ……万事『異常』なし。道を切り開く」


「シッ!」


 突っ込みのフェイクを入れる、案の定、フローラは水壁を展開したので、

すかさず止まり、アレを出す。


 ダン!


 拳銃を撃った。雷属性の弾を入れておいた。


 バチバチン!


「きゃっ!」


 弾は水壁で防がれるが、漏電でフローラがひるむ。そのスキに突っ込んだ。が、杖でコントロールされた、電気を帯びた水ごとフローラから叩きつけられる。


 ザバンッ! バチバチッ!


「ぐああ!」


 すかさずフローラも拳銃のような構えを指で型どる。


 ドン! ドン!


 水弾がガードに撃たれる。なんとかナックルで弾くがそれなりに痛い。


 ――やはり徹底して中距離をキープされる。どうする!?


 !


 フローラは仕切りにモニターに目をやり、体力ゲージ差を気にしている。


 ――そうか、エスティナ戦で使った、OPプットの自傷を警戒しているな。つまりフローラ様に四式の解除はできない。


 ――銃弾は全て、対策で雷属性にしてある。予備もある。近接にいけば水壁を展開するから、撃てばさっきのように電撃は回避できない。これを利用する!


 仮に雷撃を嫌がって消費の多い純水を生成するなら、フェイクを多様し、じわじわ撃って魔力を浪費させスタミナを奪うように算段する。


 ガードが突っ込む。これもまたフェイクだ。

予測通り水壁が展開されたため、すぐ止まり、

ステップで距離を開け、先ほどのように銃を撃つ。


 ――ここで全部撃ち切ってもいい!


 ダン! ダン! ダン! ダン!


 バチバチバチッ


「くぅぅ!」


 ガードは急いで、できるだけさらにフローラから遠ざかり距離を取る。

なるべく電撃のダメージを稼ぐために、装填済の銃弾は全て撃ち切った。

モニターを見る。


 ――よし、これでわずかに俺の体力ゲージがリードした。OPプット、3秒後だ。自傷して決着だ!


 瞬間、フローラがニヤっと笑う。そして、自分に手のひらを向け、魔法を撃った。


 ドンッ!


「なに!?」


  フローラに先にダメージが入る。つまりそれ以上のダメージをガードが受けなければ、フローラの2倍のダメージがガードに入ってしまう。しかし3秒では帳尻どころか考える暇すらなかった。


 ――やられた! ……ゼロ。


「ぐあ!」


 ――何度かモニターに目をやって体力ゲージを気にしていたのはフェイクだったのか、俺にOPの術を出させるほうに誘導したんだ。


 間延びしたスキを嫌って、時間を短くしたのも仇となった。


 ――体力ゲージは!?


 今回でフローラのダメージの2倍を受けてしまったはず。橙が残り1マス、首の皮1枚だ。対してフローラは2マス。逆転された。


「くそ!」


 問答無用で駆け出した。もう小細工はない。フローラに一撃をいれるしかない。

フローラも水壁と水球を展開する。あと一撃が欲しいのは同じだ。


 ――離れたら終わりだ! 拳が割れてもいい! スタミナの続く限り食らいつく!


「くぅ!」


 フローラも水球の数や大きさが低下していた。スタミナを使ってきている証拠だ。なんとか張り付く。対してフローラも水壁でガードの猛攻を防ぐ。しかし反撃には出ず、ガードのほうを見みたり、しきりに下をみたりと動きがぎこちない。


 瞬間――


「――オープン!」


 !?


 狙っていたようにフローラの目が見開く。床へ向かって手をかざし、何かの魔法を発動させた。ガードの踏み込もうとしたすぐ目の前の床が、水溜まりになったかのように見えた。


 ――トラップ! 止まれねえ!


 ズルッ

 

 非常に潤滑性の高い魔法の氷の床が展開された。やむなく足を取られる。

事前に仕掛けられた設置発動型のトラップだったようだ。

防御しながらここの位置へガードを誘導するのように狙っていた。


「ここで!」


 背中から倒れていくガード、フローラは千載一遇の勝機と言わんばかりに、

杖に水魔法を纏わせ、体勢を崩したガードに突きを撃ちにくる。


 ――OPプット、ノータイムだ! だが突かれればもう勝ちはない。


 シュンッ


「くっ!?」


 術の発動を感知したフローラが寸でのところ杖の突きを止める。


 !


 瞬時に体を捻り立ち上がる側ら、視界にエルの槍が映った。

ただちに掴む。


 そして、フローラの額に突きつけた。


「……」


 会場が静まりかえる。フローラもOPの発動から最後までのガードの機転鋭い動きに驚きの表情だった。


「お、お見事、です。降参、です」


「ハァ、ハァ」


 互いに体力ゲージをわずかに残していたが、フローラが降参を宣言する。


『試合終了』 



『勝者、ガード=カベヤマ、エル=スラル組』



 ――勝った、か……


「判定に意義あり!」


 !


 審判席から物言いが入る。


「その槍は、本日のガード=カベヤマの登録武器にあらず。登録外武器の使用にあたりませんかな?」


「いや、実際攻撃には至っていない。握っただけで反則とはなるまい。乱戦となれば敵味方の武器に触れるケースもあるだろう。そこまでの規定はない」


『審判団で判定を審議します。今しばらくおまちください』


 ザワザワ……


 フローラと顔を見合わせる。しかしすぐにフッと笑ったのはフローラだった。


「主審。私は負けを認めたはずです。採決を」


 物言いで判定が覆っては貴族の恥でしょうと続ける。やがて主審より、ガードの勝利が改めて宣言された。ガードとフローラが握手を交わす。


 アレク将軍とエルが会場へ戻ってきた。将軍は補助具の杖、エルは自力で回復したのか、何事もない様子で浮遊している。それぞれ握手を交わし合った。


「バルグ将軍、本日は手合わせしていただき、感無量でした。一生の思い出になります」


「……思い出か。そうなればいいがな」


「なにか、おありでしょうか?」


「クリスからの密命を受けていると聞いている」


「……はっ」


 密命はすでに満了となっているが、密命ゆえ相手が誰であろうと言うことはできない。巨漢から見下ろしてきた目は意外に厳しいものだった。またどこかで相まみえるということなのだろうか。


「?」


「ガードくん、やったね。わたしはすぐ退場しちゃったけど……」


「いや、お前はすげえよくやってくれたよ。ありがとな」


「そ、そうかな?」


 わああああ! パチパチパチ


 4名が揃い、再び会場に歓声と拍手が起こる。手を挙げて応じた。

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