第17話 - 臨時の試験2 -
「今日は見に来てよかったな」
「ああ、やっぱ臨時試験の試合はいつも退屈させねえ」
武器を変え反撃に転じたガードの攻勢を見て客席が少し盛り上がりをみせる。
・・・
「お互い速度タイプの前衛だったわけですね」
「ふん。まさかシスターで前衛とはな」
ちらりとゲージを見るが黄色まで減らせてはいなかった。
「……仕方ありません」
エスティナはハンマーを消す。そして――
2本の小型ハンマーを具現させそれぞれ片手ずつに持った。
「こちらが、私も本来です」
――うそ、だろ?
!
どちらも小型武器の二刀流、故に必然的に似たような構えとなる。
お互い同時に踏み込む。
ガキッ!
手がクロスし合い、押し合いながら、弾き離れる。
「ぐっ!」
「カベヤマさん。聞いているはずです。数段格上の相手が用意されると」
光り輝く法術が、ハンマー2本にかかる。淡い光を帯びる。
――ルイ・ナージャの光術! 聖職者の十八番だ、なにかの強化がかかったな。しかし自分でなく武器のほうにかけるとは?
「ハッ!」
踏み込みから容赦のない連撃が繰り出される。ガード同様、エスティナのハンマーも順手、逆手と向きも変えながら自由自在だ。なんとかガードも手を繰り出し応戦する。が、
「う、腕がっ」
速度は五分だが法術で強化されたハンマーの一発が重い。そして内から外への両手の弾き技が来る。ガードのボディが空いた。スキが出来るがエスティナも広げた両手が使えない。しかし、
ゴッ!
ガードへ強烈な蹴りが入る。ゲージは橙ゾーン入りの丁度まで減った。
――ッ 強すぎる。なんでシスターなんかやってるか分からないレベルだ。だが、この脚力だったのか。さっきの両手ハンマーのカウンターを成したのは。
・・・
ガード ■■■■ ■■■■
エスティナ ■ ■■■■ ■■■■ ■■■■
・・・
エスティナは終幕だと言わんばかりの表情だ。
――くそっ最悪だが、もう使うしかねえ……! このドSシスター相手にまともにやっててもまず勝ち目はない。
今日は、負けたく、ない。
「すぅ……」
――オプション・コール、30秒後だ。
シュンッ
「?」
「ぬ? 何か術をかけたようじゃの」
スタンド上の朝姫が反応する。
――俺の持つ能力は1つだ。それが2パターンある。オプションコール&プット。2者間を一定時間、契約状態にする。
コールは発動中に相手にダメージを与えた場合、”一定時間後”にそのダメージ分と同じ量を、さらにまとめて、追加で与えられる。
ただし、発動中、自分のほうが相手より大きくダメージを受けた場合、失敗となり、ペナルティとして、自分が与えた分までダメージが返ってきてしまうリスクが存在する。
プットは発動中に自分がダメージを受けた場合、そっくりそのまま相手にもその同量のダメージを与えられる。自分のダメージが無くなるわけじゃない。ヘッジとしての役割をもつ。
ただしこっちも、発動中、自分より相手へ多くダメージを与えた場合、失敗となり、ペナルティとしてその倍のダメージが返ってきてしまう。
プットは極論で言えば、実戦で発動させて自殺すれば、相手を確実に殺せる。
簡単に言えば、例えば発動中の30秒間で、相手へ多くダメージを与えられる自信があればコールを。自分が相手より多くダメージを受けてしまう恐れがあるのであればプットを。そういう使い方だ。
ひとまず難しく考えなくていい。じきになれる。
――安定を望む性格の俺は、まさに対極的なこの”投機的能力”が大嫌いだ。
・・・
――耐久ゲージがエスティナが3/4ちょっと、俺が半分。OPコールを使った以上、こっちが受けるダメージは極力避けねばならない。そして発動中に少しでもダメージを与えれば、後に全部倍になる。
エスティナも技の発動には気づいたようが、中身は知らない。
「ふううっ! っらあ!」
気合を溜め、猛攻を開始する。明らかにスタミナ的にオーバーペースで繰り出す。とにかく手数を繰り出し、エスティナが反撃に転じることができないように間髪入れず繰り出す。
「クッ!」
エスティナは防戦一方になるが、謎のハイペースの連撃の裏を疑い始め、動きに少し躊躇が出始める。
――足技に注意しろ! カスるだけでもいい。とにかく攻める!
スンッ! シュッ!
顔と肩にカスりダメージを与える。
7.6.5……
右肩のダメージで一瞬ハンマーの出が遅れた。
――ここだ!
ドンッ!
腋腹に蹴りを入れる、エスティナのゲージが、怒涛の連撃と合わせて黄色の中盤を超え始めていた。
ガード ■■■■ ■■■■
エスティナ ■ ■■■■ ■■■■
「ハァッ! ハァッ!」
「クッ ふっ、オーバーペースです。それでは――」
――2.1.ゼロ。
ッ!
「がっ…… はっ……」
突如、エスティナが大ダメージを受ける。一気にエスティナのゲージが橙になり、逆転した。
「な、なにが……」
成功だ。ハイペース中に与えたダメージを、同じだけさらに与えた。
ガード ■■■■ ■■■■
エスティナ ■ ■■■■
・・・
「ぐっ ……あなたは、異魂持ちだったのですね……!」
「終わりだ」
――OPプット。10秒後だ。
シュンッ
――ルールは赤ゾーンに先に入った方が負けだ。あとは”自傷”して自分の体力ゲージを赤の手前まで削ればいい。エスティナにも10秒後、同じダメージが入る。たった今逆転した、残りゲージの差分で俺の勝ちだ。
自分にナイフを向け、ダメージを与えにいく。エスティナは法術で契約状態のデバフを解除にいくが、
「くっ! 二式じゃ解除できないっ」
エスティナがハンマーを捨て、飛び込んできた。ガードの両手を掴んで封じる。
「さ、させません!」
「ちっ、気づいたか、勘のいい女だ!」
あまり見栄えのよくない取っ組み合いになる。
――なんとか自分にダメージを与えないと! もう3秒しか――
腕の取り合いでもみくちゃになる。
そして――
「ぶちゅう」
!?
なぜか、唇同士が、ぶつかる。
!?!?
――え?
「あ、いや、その……」
「……」
エスティナは手を放し、下を向いたまま、ゆっくり審判の方へ歩いていく。
「……降参します」
言うと走り去ってしまった。
・・・
『勝者、ガード=カベヤマ』
パチパチパチパチ
わあああああああああ!
「ふむ」
朝姫は札を1枚放って転移して帰っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます