第18話 - 昇進 -

 控室へ戻るとエルとその母親が待っていた。


「おめでとうガードくん、はい」


 槍を戻してもらった。


「でもエスティナさんに謝らないとだめだよ? いくら勝ちたいからって最後のはひどいよ」


「……わざとじゃないっての」


「エル、あなたもうかうかしてられないわねえ」


「?」


・・・


 へとへとだったが会場の外へ出ると衛兵仲間が出迎えてくれた。


「やったなガード! すごかったぞ!」


「今日はおごってやる、いこうぜ!」


「いつかやると思ってました」


 ――おい最後のヤツ、以前俺を売ったのを忘れてないぞ。


 衛兵たちと飲み明かした。今日は体力ゲージという目に見える目標があったため、能力を使う決断ができた。


 ――だが実戦でこれを使うのは……。


 そんな日は来ないで欲しい。


・・・


-司書事務室 -


「話は聞いた。臨時試験に合格するとはな。見事だ。晴れて一等兵だな」


 翌日、ガードは臨時試験突破の手続きを行うため、司書室へ赴いていた。記入表を寄こしながらカーリの労いを受ける。


「すみません、ヒロイン好感度表を確認したいのですが」


 スッっと渡してくる。



好感度 全5段階


エル    💛💛💛

キャオル  死亡

エスティナ 💀💀💀💀

フローラ  💛

シャーロテ 💛💛💛💛

朝姫    💛



・・・


 ――俺はそこらの主人公と違って鈍感なんてことはない。まあカンペは見ているわけだが。対策は怠らん。しかし出会いを避けては来たが見事に出会いまくりだ。


 幼馴染のエルの好感度は昔から不動だ。告白でも何をしてもビクともしないだろう。エスティナは逆リーチとなっていた。これ以上下がると、ガードを殺しにくるだろう。


 ――問題は、シャーロテだ。婚姻届を奪還する任務もある。ここからいくか。


「司書官殿はエントリーしないのでありますか?」


「調子に乗ってきたな。次から加えておいてやる」


「……お前がそれでいいのならな」


「?」


-宰相執務室-


 コン コン


「東区第二師団所属、カベヤマであります!」


「入れ」


 入室するとクリス宰相とフローラもいた。


「ガードさん! やりましたね。録画でみました。ラストは最低でしたが」


「ふん。首の皮一枚つながったな」


「父は内心喜んでいるのですよ。役人達に、どこからあんな逸材を見つけてきたのかと殺到されて」


「フローラ、余計なことは言うな」


「……無事、一等兵へ合格できました」


「うむ。お前の好きな固定給が上がってよかったな。所属はそのままとする。あれこれ動かしすぎるのは良くない」


「で? それだけ報告に来たわけではあるまい?」


 ――実質剛健、鋭さは健在か。


「婚姻届の奪還に赴こうと存じます」


・・・


「分かった。自身でやれとは言ったが、貴族相手にお前一人では絶対に無理だ。人を寄こす。少し待て」


「はっ!」


「……カベヤマ」


「お前はまだ未熟だ。それは悪い事ではない。どんな結果になっても、気を強く持て」


「? 了解しました」


 フローラは途中から本当に無言になってしまった。


・・・


 中庭へ出る。ふらふら歩いている小柄な美人に狙いを定める。この度一等兵になって自分の武器の所有が認められた。柱の影に隠れ、ナックルナイフを取り出す。


 ――ッ!


 一足飛びで斬りこむ。


 キンッ


 ――やはりな。


 軽く鉄扇でいなされた。こちらを見てすらいない。


「国賓を暗殺とはのう。極刑が所望なのか?」


「俺をぶっ刺したのでおあいこだ。神来社朝姫様さんよ、頼みがある。先日の埋め合わせってやつをここで」


 ワザと刺した相手に敬語を使う気になれない。


・・・


 朝姫はガードを品定めするよに、数秒、上下、手元と視線だけ動く。そしていつものニヤケ面に戻る。


「いいだろう。だいたい見えた。朝姫と呼び捨てで良い。で、何をする? 特訓に付き合えとかふざけたことは抜かすなよ?」


「シスター・エスティナに謝罪に行きたいので、護衛を頼みたい」


「……」


 げんなりした顔をされた。


「お、俺はもうリーチなんだ! このままじゃまずい、せっかく固定給が上がったんだ。ここで終わりたくない! 次失敗したら奴は俺を殺しに来る。間違いなく! だが奴は強い。おそらくそれ以上に強いのはあんたしかいない!」


 とてもかっこ悪い口上を並べまくる。


「頼む! 癒しの巫女様!」


「ん、私は癒しの巫女じゃないぞ。 御神と契約する、朝丞ちょうじょうの巫女じゃ。たしかに回復もできるが得意なのは術式。先見も星詠みもできる。周りの勘違いをいちいち訂正する気にもならんが」


 ――朝丞の巫女?


「刺した時、何もしなくても、お前が助かることが『見えて』いた。だから何もしなかった」


 ――しようよ。そこは。


「ククッ そして、お前のこれからも。だから呼び捨てて良いと言った」


 またゾクっとするような笑みを浮かべた。


「この際言っておく。シスターへの謝罪は一人で行け。死にはせん。ただ――」


「どこかに乗り込む気でおるな? そこには私を連れていけ」


「……」


 じゃあの、と言ってまたふらふら歩いていってしまった。


・・・


 教会へ来た。


 ――大丈夫なのか。今日が命日じゃないことを祈る。


 シスターエスティナを発見した。


 !


 が、ガードの姿を見た瞬間、スタッフ室へ駆け込んでしまった。変わりに別のシスターが出てきた。仕方なく話しかける。


「あの、すみません」


「ああ、こんにちは露出趣味のカベヤマ様、今日はどうしました?」


 儀式の受付に居た人だ。今日もニコニコ応対される。


「えと、エスティナさんは、何か言っていましたか?」


「んー、最近、絶対に叩き潰すとか、よく呟いていますよ」


「……」


 ――どこが先見だ、エセ巫女め

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