第15話 - 城内の勤務 -

「出会えー! 出会えーい!」


 あれから数日。腹部のケガもほぼ癒え、通常任務にもどっていた。


「出会えーーー!」


 ――うるせえな。……あ、俺が出会え系だった。


 勢いよくドアを開け、会議室内へ突入する。


「何事だ!」


 10名ほどの要人が円卓を囲んでいた。宰相の姿もある。


 ――何事もないように見えるが……。


「貴様か!」


 適当に目の前の老人に槍を突き付ける。


「ワシじゃないわ」


 クイっと首を振った先に別の老人が飲み物をこぼしていた。じきに女給仕が駆け付けて拭いていく。


 ――そんなんで呼ぶんじゃねえ。


「まったくじゃ、あのようにボケたくないわい。いつまでも引退せん老害め。ん? 二本線? なぜ二等兵がここにおる?」


「え」


「城内勤務は一等兵以上のはずじゃぞ。槍だけは上物じゃな? どこかの七光りか?」


 宰相の顔を見る。呆れかえっていた。


「……貴様はどこまでも私の顔に泥を塗りおって」


「……」


 ――えええええ? あんた俺をカベヤマって呼んでたよな?


・・・


「すぐに一等兵昇進試験を受けろ。ったく」


 会議終了後、退室し通りかかった宰相に廊下でまた責めを受ける。


「……はっ」


 ――分かったか? 世のパパはいつも理不尽と戦ってるんだぞ。


「それとすみません、神来社朝姫様は何者ですか?」


「分からん。あの者の真意を測ることは常人には難しいであろう。ただ何か目的は持っている」


 言うと立ち去って行った。


・・・


「なに? 臨時のほうの昇進試験を受けたい?」


 俺はいつぞやの司書官殿を訪ねていた。カーリ=ハーゲン殿というらしい。左大臣ベーリットと同じ、ハーゲンだが、何か関係があるのだろうか。


 状況を伝え、説明を受ける。


 臨時試験は三か月ごとに行われる。合格すれば問答無用で1つ上の階級や役職へ昇進できる。


 但し実技試験にせよ、記述試験にせよ、難易度が高い上に、数年おきに通常の難度でめぐってくる試験のため、無理に受ける人間が少ない。ただでさえこの国は試験が多い。過去何か問題が起こるたびにつまらない制約を設けてきた結果だ。


「なるほどな。それで一等兵へと。申込書はそこだ。書いていけばここで受理できる。だが聞いているとは思うが――」


 内容は至ってシンプルだ。兵士としての昇進試験のため、単純に実力を見られる。対戦し、実技で自分より強い者に打ち勝つこと。だが、用意される相手は知らされず、過去甘い相手であったことはない。


・・・


 教会へ来ていた。


「……またあなたですか」


 シスター・エスティナは厄介者を見る目で嫌々ガードに応対していた。


「熱心なのは良い事です。ですが、一過性では結果はでませんよ?」


「今回は、どうしても勝ちたい試合だからな。俺にしてはめずらしく」


「……」


「何を祈っているかは知りませんが、あなた程度では身の程を思い知ることになるでしょう」


 いつもの調子だった。


・・・



 帰宅し、2つのサボテンを見る。


 ――お前らは変わらないよな。俺はなんだか変わってきてしまった。


 いいのか悪いのか分からない。だが基本は変わらない。異常のない人生のために。


・・・


 試験当日。調子はいい。中型の屋内闘技場へ赴き、会場入りする。


 使用する武器が防具も含め3つまで登録できる。エルから借りた槍と自前の武器を登録した。臨時試験は希少で、腕自慢が挑戦することが多く、なかなかハデな試合になることが多い。ぽつぽつと観戦者がいた。


「ガードくん、がんばれー」


 エルとその母親もいた。あれは野次馬だろう。同僚衛兵連中もいる。あれは冷やかしだろう。神来社朝姫もいた。あれは暇人だろう。


 ――だれかまともに応援してくれ。


 準備を済ますとすぐに控室から出るように言われる。会場中央で相手を待つ。


『それでは臨時試験を始めます。本日は1試合のみとなります』


 ――さて、相手は誰が来るのか。


 想定してるのは近衛騎士クラスだ。実力ある騎士を何人か思い浮かべてはシミュレーションしておいた。


『相手選手入場、エスティナ=ローバー』


 ――へ?


 シスター・エスティナが入ってきた。普段の聖職者の制服ではない。初めて見る銀色の肩手前までまっすぐ伸びたセミショートの髪を両側で少量つまみ、動きやすさを重視した白基調の神官の服装だった。


「やはりあなたでしたか」


 !


 ――このエスティナが、俺の実力を相当数上回る相手なのか?

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