第0.5章 知る日々

第12話 - 城へ -

 城内警備はそのまま城内の兵士宿舎に寝泊まりする。2人1組の部屋が割り当てられた。宰相の計らいによって移動となったガードは、同じく移動となった同僚のセスと一緒に宿舎に荷物を持ち込み整理する。


「あー、通勤手当がなくなるのは痛いが、多少給料上がるしいいか。またよろしくな。ガード」


「ああ」


 城内勤務となった初日、褒賞式が行われていた。傭兵、オッド=ニルセン♂。また外部で功績を上げてきたようだ。


 ――俺たち衛兵に対して、職業上のライバルとなるのがこの傭兵。自身で斡旋を選択し、自由が利く代わりに完全実力性のいわゆる派遣、フリーターだ。


 その中でもこのオッドは実力も素行不良も目立つ男だ。暴力好きで女癖も悪い。斡旋を受けては実績を重ねるが同時に独断専行の蛇足もあり、問題もよく浮上する。190cmくらいありツンツンした濃い赤髪、スジ張った筋肉に手足が異様に長い。

  

 ベーリット=ハーゲン左大臣♀が賞を与える。よくニュースにも名前が出る黒い噂が絶えない若オバサンだ。議員としては改革派を掲げ、保守層には煙たがれる。現政権の嫌われ者だ。派閥は精鋭で筆頭格の将軍に次いでナンバー2の権勢を誇る。


 その曰く付きのベーリットに素行不良のオッドが主役の褒賞式、周囲の城詰め勤務の人間もあまりうれしくなさそうな反応だ。


 式が終わり、通常の配置へ戻る。ガードは大会議室へと続く廊下の警備だ。支給槍を立てて佇む。次いでツカツカと先ほどの傭兵オッドが寄ってくる。そしてガードの兜を大きな手で真上から掴んだ。


「テメェ、臭うぜぇ」


「甲冑がか? 自身の奇抜な臭覚を呪うんだな」


「キッハッハ。なあに、いずれ死ぬまでやり合う仲だ」


「おやめなさい。用が済んだら退去しなさい」


 いつかの司書殿だった。オッドは笑ったままポケットに両手をつっこみそのまま去っていった。


 宰相クリス=ハンセンと2人組の部下が通りかかる。すぐに敬礼をする。ガードの前に立ち止まった。周囲に人の気が無いか少し確認する。


「……城に上がったようだな。」


「はっ!」


「何か掴めているか? 報告は?」


 ――フローラ様に言った通り何も仕事はしてない。だが何か言わなきゃ無能すぎる。


「……セスが怪しいと思います」


「同室のか? なぜだ?」


 第一話の初っぱなに登場し、環境が変わったこの冒頭でも登場する。だいたいこういう輩が不審で何かやらかす。犯人だろうと伝えた。


「ふむ」


 宰相らは立ち去った。


・・・


 !


 すさまじい美人が迫ってきた。要人だ。敬礼する。前には2名、護衛騎士が先導する。


 ――金襟か、うらやましいぜ。さぞ給料もいいことだろう。つい護衛騎士を目で追ってしまう。じゃなくて、この女はたしか……。


 155cm無いくらいの黒髪パッツンのストレートロング。着ている赤の和服は床をはるかに超え、引きずっている。


 神来社 朝姫からいと あさひ


 東陽国の国賓、大物だ。我がフォルナンデス国とお互いに王族級を遣わし合っている。と言えば聞こえがいいが、はっきり言えば人質同士だ。ガードより少し若いくらいか。


 ――どっかでみたことがある気がするがまあいい。


・・・


 夕方、勤務を終え、宿舎に戻る。一通の手紙が届いたいた。


-検事所へ出頭せよ-


 そういえば訴えられてたんだったな。ギャレンティン家の門番に。


「ったくやってられねえよなあ」


 セスが荷物をごそごそしながら何か言っていた。


「どうした?」


「聞いてくれよ、来た初日でいきなりまた移動だってよ。ちゃんと確認してから配置してくれよなあ、もー」


「……」


 ――セス、マジすまん。


・・・


 翌日、呼び出しに従い検事所に出頭する。受付の窓口へいくと職員が応対した。


「あー、カベヤマさん。ちょうど相手も来てることだし、お話してもらえませんかねえ。正直こんなの上げたくなくて」


「?」


 そこにはギャレンティン子爵と門番がいた。


「いやあ、ガード君。なにやらうちの門番が、納得いかないと聞かなくてね」


 ――いや、止めろよ。あんた俺と娘をくっつけたいんじゃないのかよ。


「てめ、あのくらい冗談て分かるだろ」


「さて知らんな。俺は何も話さん」


・・・


「しょ、証拠はあるんですか? 俺が脅したって言う」


 ピッ


『俺ぁ、エルのマブダチだぞ? 世界で5番目(適当)につえーんだぞ? お前なんか一瞬でぐちゃぐちゃにされんぞ? コラ』


「……」


 ――監魔レコードで録音してたのか。門前ならあっても不思議じゃないか。


『お前なんか一瞬でぐちゃぐちゃにされんぞ? コラ』


「どうするのかね? ガード君」


『お前なんか一瞬でぐちゃぐちゃにされんぞ? コラ』


 ププッ クスクス


 ――てかとめろっての。周りに笑われてるだろ。


「しかしガード君、私も未来の息子が前科者では悲しい。こちらへサインしくれんか? それで取り下げよう」


 シャーロテとの婚姻届だった。


「ぐっ……ってかおい職員、これこそ脅迫の現行犯で逮捕しろよ」


「バーカ。上級国民を逮捕するわけないだろ」


・・・


 ガードは屈してサインした。


 ――まあ、最悪子爵子女と結婚になっても老後資金は安泰だ。俺の目標の老後生活にとってデメリットにはなりえない。


・・・


「バカもんが!」


 !


 数日後、ガードは宰相に個室に呼び出され、叱責されていた。フローラも同席していた。


「ギャレンティン子爵家の子女との婚姻届にサインしただと? 以前部下を寄こしてまで蹴らせたのを忘れたのか!」


「で、ですがまだ相手は少女、法的効果はありませんし――」


「はぁ、お前は貴族の怖さを何もわかっていない。見ろ。もうあと数日で15だ」


 シャーロテの個人資料が提示される。未成人だがもう数日で婚姻可能な15歳の誕生日を迎える。提出すれば婚姻が成立してしまう。


・・・


「父上、ガードさんに全てお話し出来ていないこちらにも非があるのでは?」


 フローラが一方的に叱責されるガードへ助け船を出す。


「なんだもう庇いおって、お前も異魂にやられたのか?」


 !


「父上! 言っていいことと悪い事があるのでは!?」


「……まあいい。婚姻届は絶対に取り返すか、もしくは破却しろ。自力でやれ」


「りょ、了解しました」


「ったく、成果はゼロ、問題は起こす。正直なんでこんな奴を取り立てたのか分からぬ」


「父上! 事実だとしてもひどすぎます!」


 ――死んでいいですか?


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本作はいわゆるよくあるストーリー要素の作品ではありません。(多分)

限定していませんがノリは男性向けです。よろしければ続きをどうぞ。

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