第11話 - 志 -

「エルー、お客さんよー」


 儀式からエルの転移魔法によってエルの部屋に直接到着したガード、下から声がかかる。


「じゃあ俺も帰るから玄関いこうぜ」


 2人で玄関から出ると、そこには魔族のガーゴイルが3体いた。


 ――いや、客じゃないだろ、どうみても。


「お世話になります。エル様、一級神シース・オーとのご契約、おめでとうございます。さっそくですが、魔界側の各有力者達との関係も変化が生じます」


「魔人以上で、2名が盟約破棄を、1名が新たな盟約を、2名が、見直しもしくは再交渉を希望しています」


「うーん、よくわからないから、全部サインするね」


「おいエル、それは危ないぞ。どうみてもツラからして悪徳業者だろ」


「そこの男、うるさいぞ。さっさと帰れ。邪魔だ」


 控えのガーゴイルがガードを見て言う。


「なんだと? 営業のくせにそんな態度でいいのか? 苦情するぞ。名刺くらい出せ」


「ぐっ……邪魔だけはするな」


 名刺を渡してきた。本当に営業だった。


・・・


 今日こそはフローラに会いにいくと決意する。遅れればまた宰相の部下にとやかく言われるだろう。ガードは出勤前の準備をしていた。


「おいガード、所長が呼んでるぞ」


 ――またか。


 コン コン


「ガードであります!」


「うむ。おいガード、お前訴えられてるぞ」


「は?」


「エル=スラルの名前をかたって脅迫されたって人がいる」


 ――どう考えてもギャレンティン家の門番だった。


「証拠もあるらしい。おそらく立件されるだろう。そのつもりでいてくれ」


「ちょ、そんなの悪ふざけでは? ここで不起訴にしてくださいよ」


「エル=スラルに関しては扱いが神経質でな。ここだけじゃ止められない。模倣もほう犯が出ないように厳しくなってる」


「……」


 ガードは告訴された。


・・・


「ガードさん、お待ちしていました」


 ようやく宰相の娘、フローラ=ハンセンとの面会が叶った。165cmくらいで意識せずとも目がいってしまう豊満な双乳に魅力的なスタイル、長い水色の髪は淑女を思わせ、本日も花園を勤務をすると思われるエプロン姿であった。


「お久しぶりであります! 先日はご迷惑をおかけいたしました!」


 ビシっと敬礼するが、すぐに制せられる。密命を行う間柄の内は、対当な関係でいましょうとの要望だ。


「まず連絡なのですが、本日で門番の任を解任するとのことです」



 ……え



 ……いま、なんて?



 ……クビ?



 ……俺の終身雇用は?



 ……年金は?



「な、なにか、私に落ち度があったんでしょうか?」


「えーと、父の前でイスに足を挙げてくつろいでいたとか……」


 ――マジであれでクビかよ。


 ガードは目の前が真っ暗になった。


・・・


「とうわけで、今度からは王城内の警備の任についてください」


「よかったああああああ」


 例の密命、ドウターの発現に関与する者の炙りだしに対し、情報の得やすい持ち場への移動を行ったとのことだ。


「外に出れば私もすぐその辺にいますので、接触しやすいでしょう」


 宰相の采配だろう。王城内なら、要人とすれ違ったり、場合によっては立ち話なども耳に入りやすい。


「さっそくですが、私からの情報です。というか、父に開示してよいと言われただけなんですけどね。ガードさんは、捕えたドウター達がその後どうなっているか、ご存じですか?」


「……いえ」


「彼、彼女らはその後、ほとんどが失踪しています」


 !


 男女やその年齢外見、保持する能力に関わらず、謎の失踪しっそうを遂げているとのことだった。その失踪が、自発的によるものなのか、誰かの手引きによるものか、そこは分からないのだと言う。


 監視魔法レコードの録画では、脱走ではなく自然に体が消失し、消えている様に見えるそうだ。


「ガードさんは、”異魂”というものをご存じですか?」


「……すみません、それも」


「分かりました。どうか焦らず。ガードさんからこちらに伝えたいことはありますか?」


「それもすみません、関与する者、とのことですが手がかりはなにも……」


「城内警備になればもう少し情報も得やすいでしょうね」


 フローラはクスっと笑い、まずは力を抜いていきましょうと気遣いを見せた。


「それと、依頼されていた品です」


 !


 それは、ガードが葬式場を去る際、宰相の部下へ伝えていたことだ。拳銃という武器をなんとか抑えて欲しい。それを達成してくれていた。


「どうぞ。研究者や軍部とも競合しているので、棒2本や通信機のほうまでは無理でしたが」


「本当にありがとうございます。これは役に立つはずです」


(ガードは拳銃二丁を手に入れた)


「いえいえ、それでは――」


 !


 ガードは視界に見えた人物に気づき、一瞬ですぐに片膝を付き頭を垂れる。


 ――皇女殿下……!


「あらあら、フローラ、今日は男性とお話? 抜け駆けかしら?」


「まあ、アスティ様、ご機嫌麗しゅう」


 そこには――


――俺が命を捧げたいと思う人だ。国でも国王でもなく。俺やエルは、昔、この人に”命を与えられて”いる。


 そう。単に終身雇用目当てなら危険の無い事務職にでもなっている。ガードが衛兵を志した起源だ。アスティ=ウィル=フォルナンデス。第一皇女。兄弟に妹の第二皇女、兄の時期国王が居る。


 ゆるやかな世間話が始まる。もう顔は上げられない為、2人の表情までは分からないが、やはり身分の高い者同士、旧知の仲のようだ。不意に、スッとフローラからこちらに手の平が見えた。


 下がれ。ということだ。ガードはゆっくりと後退し、数メートル離れたところで踵を返した。


 ――城内か。異常がなさそうな場所だ。栄転と言える。ただ、それだけだろうか。胸騒ぎがしていた。

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