第10話 - 儀式の参列 -

 休日、適度にしばらくやっていなかった日課の訓練をした後、フローラとの接触方法を考えた。


 ――明日はエルの儀式だったな。行くか。シスターの好感度も改善したい。申請すれば勤務扱いになるだろう。ただ……。


「フローラ様との接触方法が分からん」


 一度目の出会いはガードは全身甲冑で兜をかぶっていた。向こうはこちらの顔を知らなかったため、2度目の出会いは不審者扱いされた。普通に行っても同じテツを踏むかもしれない。


 ――ていうかそっちの空いた時間でいいから指定くらいしてくれ。


 初回の出会い方を思い出してみる。歩いている最中にぶつかって水をかけられた形だった。もういちど同じシチュを生み出そうと妄想する。自前の兜と甲冑を付けてみる。


「うおっ くっせ!」


 兜はよかったが甲冑が臭すぎたので即脱いだ。ついでにシャツまで匂いがついたのでそれも脱いで、裸になった。


「ガード、外の虫よけを中へ入れておくれー」


 母親に呼ばれる。めんどくさいので兜だけ被ってそのまま虫よけを取りに行った。


ガチャッ


 玄関を出る。するとそこにはなぜかエルとエスティナがいた。明日の打合せだろうか。


「……」


「……やはり変態でしたか」


「ガードくん、それじゃ寒くない?」


「……」


・・・


 翌日、詰め所に向かい、申請をし、仕事もそこそこに教会へ向かった。すでに人がまばらにおり、教会のスタッフは勢ぞろい、一般人は熱心な信徒といったところだ。定期のアナウンスが入る。


 『儀式に参列される方はこちらで手続きをお願いします。本日は一級神シース・オー様が降臨されます。信徒、もしくは参列は、主神と友好以上の信仰関係者のみです。中立以下の信仰者は入場できません。ご注意ください』


 『その他、主神と各種契約状況における関係性も十分ご注意ください。有事の際の事故の責任は一切負えません』


 ガードの信仰もエルと同じこの風の神シース・オー。ここフォルナンデス王国では信仰は自由で比較的バラバラだが、過半程度の国民がシース・オーだ。


 受付の前の列に並ぶ。そう人数は多くはない。女性が多く、笑顔で受付とも会話している。普段から熱心な者がほとんどのようだ。じきに順が回ってきた。


「これはカベヤマ様、お話は伺っております。露出狂だとか」


「……」


 笑顔で丁寧に応対してくれた。手続きを済ませ、入場する。入口付近にエスティナも含め、シスター系のスタッフが集まっていた。ガードの入場を確認するとエスティナの鋭い視線だけがこちらへ向く。


「意外です。変態神と契約していたあなたが入れたとは」


「……」


 ――お前が来いっつったんだろ。やたらなこと言いふらしやがって。


・・・


 儀式が始まった。参列はざっと50人程度だ。エルが何かを言ったり、発動させたりして進めていく。やがて神が降臨した。


 ――神の姿は当人のエル以外は絶対に見てはいけないんだったな。子供のころ見ると目が潰れるって、だいたい家で教わってるはずだ。実際は耐性の低い人間が見ると自我が保てないためだろう。


「~~~。~、~、~との関係を破棄する。~との契約を行う。~、~、~の魔導書の契約を破棄する」


 これまでのあらゆる契約が書き換わっていく。段階的にエルの姿が光ったり色が変わったり忙しい。


「汝、シース・オーとの契約を認め、神魂を有することを是認するか」


「承ります」


 直後、エルを強い光が包み、神は消え去った。拍手が起こる。


・・・


「素晴らしいです。本来は国営行事でやるべきことなのに、このような狭い所で残念です」


 神父が感動していた。フォルナンデスは多信仰国なので、国ごと一つの神に肩入れすることができない。


「スラル様、お見事でした」


 熱心な信仰者がエルを囲んでいる。シスターが語り出した。


 一級神と直接契約した人は110年ぶり、シース・オーは、以前から人間に友好的で、神格者候補を探していた。エルにもそれなりに前から声をかけていたとか。


「神魂を得たので普通の人と同じ時間軸ではなくなりましたが、彼女なら大丈夫でしょう」


「ん? どういうことだ?」


「神魂を得れば、基本的に不老不死です。魂の核を破壊されない限り、死ぬことはありません」


・・・


 エルは神格同位となった。ガードのエルへの恐怖が永遠のものとなった。


「あ、ガードくん、どうだった? 神様が来るとスッキリしない?」


 信仰者やスタッフから解放されたエルがこっちに来た。髪が濃い緑から青の間で変色するようになっていた。


「髪の毛が赤系にならなくなったんだな」


「そうなんだ。まだ鏡みてないけど、たぶん大地系の力が、大分下がったからだよ。その代わり風はすごいよ」


「ど、どのくらすごいんだ?」


 怖いが聞いてしまった。


「うーん、まだ試してないけど、空気の濃度も密度もゼロ以下にもできるよ」


 イマイチうまく想像できなかった。


「なんだ。てっきり城ごと風で吹き飛ばせるとか思っちゃったぜ」


「ん? そんなの適当な力でできるよ?」


「……」


「今日はもう帰るよね? 転移しちゃうよ?」


「あ、ああ」


 ヒュンッ


 一瞬でエルの部屋に付いた。


「あ!」


 下着が散乱していた。朝の準備がギリギリだったのだろう。エルの下着など正直どうでもいいが、すぐに目を背けておく。


「み、みちゃだめだよ!?」


「もちろんです。殺さないでください」

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