第9話 - もてなし -

 日が変わり、勤務に復帰したいたガードは終了後、返事をするためにギャレンティン子爵邸前に来ていた。多く貴族の住む西区には大きな邸宅が立ち並び、路地もキレイで規則正しい景観が続く。


「東区第二師団所属、ガード=カベヤマであります。子爵様に面会希望です」


「聞いておらん。帰れ」


・・・


 門番に話しかけるが一蹴される。


 ――だろうな。どうするんだ、これ。



1.エルからの返事を持ってきたとに言う。

2.キャオルを祈りたいと言う。

3.金を渡す。

4.コイツを倒して中へ入る。



 ――上から全部やるか。


「エル=スラルからの返事をお持ちしました。お取次ぎを」


「それも聞いておらん。帰れ」


 ――人目を避けた依頼だ。コイツ程度じゃ知らなくて当然か。


「それと、キャオル様の弔問ちょうもんに参りました」


「キャオル様に関連する訪問は、誰も通すなと言われている。マスコミも多いのでな」


 ――俺が関係者ってことも知らんのか。


「受け取ってくれ」


「?」


 162ナン(162円相当)を渡した。


「ふざけてるのか?」


・・・


「――お前を、倒す」


「上等だ、不審者め」


・・・


「いいのか?」


「あ?」


「俺ぁ、エルのマブダチだぞ? 世界で5番目(適当)につえーんだぞ?」


「……」


「お前なんか一瞬でぐちゃぐちゃにされんぞ? コラ」


「……」


「と、通れ」


・・・


 ――これいけるだろ。カツアゲとか余裕なんじゃないか? 公人は副業が不可だからな。選択肢の一つとして有用だ。


(ガードは脅しを覚えた)


「東区第二師団所属、ガード=カベヤマであります。 子爵様に面会希望です」


「ご案内いたします」


 門から数十メートルある敷地を越え、玄関へ到着するとメイド風味の使用人に通された。


「カベヤマ殿、よくいらっしゃった」


 客室に招かれると子爵が応対し、すぐに茶菓子が用意されはじめた。


「お待ちください。もてなしは不要です。本日はやはりお断りのご報告となりました」


「……そうか。残念だ。だが、本日は個人的にお話もしたい」


「?」


 じきに、婦人も呼ばれる。両名揃ってのもてなし状況となり、さらに意図がわからなくなる。


「カベヤマ殿、先の戦いぶり、その健闘ぶりは伺っている。お見事だ。本日は紹介したい者がいる。シャーロテ、入りなさい」


 すっとした足取りで女性が入室し、優雅に軽く膝を折る。


「シャーロテ=ギャレンティンです。お見知りおきを」


 まだ、中等部程度の学齢期の少女だった。身長もまだ150センチにも満たず、キャオルと同じく金髪の長髪だが筋肉質ではなく、そのまま貴族のお嬢様だ。


 ――かわえええええええ! 持ち帰りてえええ!


「ヤベヤマ殿には、この次女シャーロテとの婚姻を前提にお付き合いを願いたい」


 ――は?


 一瞬言葉が理解できなかった。この夫妻に対し、正気か? という視線を送る。娘を失ったばかりだ。子爵が話始める。


 ガードは先の戦いで生き残る強さを示した。長女にはそれが出来なかった。一族に生き残る本能の強い血を入れたい。元々この次女シャーロテは嫁へ行かすか、婿をとるために育てた。そちらは爵位が手に入る。条件的に悪くないだろうという話だった。


 ガードはゾクっとした。


 ――この夫妻は、もはや家名だけが全てなのか。家名の存続のためなら相手の身分に関わらず頭を下げる。報酬も払う。身内も切り売りする。おそらく自分自身ですらも。


「貴族の問題は報じられている通りだ。少子化問題で婚姻が成立せず、昨年だけで3家が取り潰しになっている」


「貴族達の目はもはや一般市民に向いている。この傾向は一層強くなるだろう。カベヤマ殿なら、申し分ない」


「す、すぐにお返事というわけには……」


「もちろん構わない。ただ、娘との時間は定期的に作って欲しい」


・・・


 その後、シャーロテと話しが弾むようにセッティングされた茶会を嗜んだ。1時間くらいでお開きとなり、こちらの時間も圧迫しないようにじきに自然に開放された。


「……」


 ――これはもうゴールしていいのでは!?


 帰宅しながらすでにガードは揺れていた。シャーロテは嫁に出すため育てたと言っていただけあり、退屈せず気立ても良く、その振る舞いは素晴らしかった。爵位に興味はないが、貴族は貴族だ。老後資金の安定性は申し分ないだろう。


 ――しかもかわいいじゃないか。いや俺は断じてロリじゃない。どちらかと言えばフローラ様のような胸の豊満な女性が――。


「カベヤマ」


!?


 西区から帰る最中、路地を曲がると先日の宰相の部下らしき2人組が目の前に居た。


「ギャレンティン家とは現状の関係を維持せよ。それとそろそろフローラ様と接触せよ」


 相変わらず一方的に伝えすぐ消えていった。浮かれたテンションが一気にニュートラルへ戻った。


「……」


 ――くそっ そうだった。俺には宰相からの密命が。ん? でも待てよ、でもこれで年金のアテが二階建て(違)になったのでは。


「……ついに、俺の時代が来たか」


 再びギアが1段上がった。

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