第8話 - 職務のツケ -
誰か来てくれと、1分ごとに応援を叫び続けた。人目に付かない場所だったので、3回目でようやく人が気づき、救援が呼ばれた。
騎士3人、ドウター2人、そしてキャオル。6つの死体が収容され、致命傷は無かったが、ガードも救急班に運ばれた。
「ガード、よくやった」
駆け付けた所長に
――キャオルは、最初から俺しか応援を呼ばなかったんだ。
キャオルの指示は完全にマニュアルに則っていなかった。憶測ではこうだ。ドウター等の討伐において、なんらかの縛りや
そのくらい一人でやってのけて、騎士の家柄だとか、同格の他家に対する見栄だとかそんなところだろう。
その考えが、彼女に死を招いた。実戦は甘くない。
数日で体調が回復すると、長い取り調べが待っていた。1人が質問し、数人がメモだけ走らせていた。正確に話す。この中に、宰相の手の人もいるはずだ。そしておそらく、ドウター発現に関与する対抗勢力の者も……。
・・・
聴収以外は数日間家で療養し、騎士4名の葬儀の日に合わせて出勤するように言われていた。すぐその日となり詰め所へ向かう。関係者ということで、ガードと所長が出席となった。
会場へ着くと、少し雰囲気がざわついていた。棺が一つ違った。キャオルのみ土葬希望とのことだ。
――土葬? リーヴェンの信仰なのか? めずらしいな。あれは……キャオルの両親、ギャレンティン夫妻か。
『王国騎士4名。民を守り、ここに最高の栄誉を授かる。神民となりて――』
式が続く。途中、ギャレンティン夫妻こちらをちらちら見ていたので
・・・
式が終わり、所長と戻ろうとするも、すぐに呼び止められる。
「カベヤマ殿、少しお話が……」
ギャレンティン夫妻が人目をはばかるように話しかけてくる。所長とガードはビシっと敬礼する。式で子爵と言っていた。相手は貴族だ。
「所長さん、すみません、少しカベヤマ殿をお預かりしたく……」
子爵婦人が申し訳なさげに声をかける。
「はっ! ではこれにて!」
所長は去っていく。貴族は基本的に公人となる。市民から見れば現代ではそこまで貴族の身分の優位性はないが、ガードも公人のためここでは上司となる。しかしやけにその姿勢は低い。
キャオルが死に至るまでの経緯を聞きたい、というわけではなさそうだ。そんなものは散々聞かされているだろう。
式場の家族控室のそばまで誘導される。周囲から死角となり声が聞こえ無さそうな状況になると、子爵が話し出した。
「カベヤマ殿、少しお伺いしたい。たしかスラル家の息女と
――! ……そういう、ことか。
不意に出されたエルの存在。一瞬で何が言いたいかを理解した。
「……キャオル様を、生き返らせろ、ということでありますか?」
「……」
双方、視線を落としたが、微動だにせず。肯定だ。
「満足していただける報酬は考えています」
今度は婦人がそう言うと、両者同時に頭を下げ続けていた。ガードが立ち去るまでそうしているつもりだろう。
「エルが承諾することはないでしょう。ただ、お話はさせていただきます」
そう伝えその場を離れた。
・・・
式場から出る前にまたすぐに2名の宮内職員がガードの前に立ちふさがる。ガードがフローラに粗相し、捕まった際に開放の助力をした二人だ。
「ギャレンティン子爵から、いくらの報酬が提示されましたか?」
!
同時にすっと手帳のようなものを見せてくる。宰相の家の家紋だ。つまりガードに密命での用件で話しかけている、と示している。
「提示額以上を即金で支払います。お話を
・・・
「あの子爵は敵勢力ですか?」
「……」
余計なことは一切話さない。分かる事は、ガードが話に乗ると、不利益が出る可能性がある。ということだけ。
「エルは断るでしょう。私は報酬を受け取る条件を満たせません。以上であります」
「あ、それと――」
もう一件報告をして、式場を立ち去った。すでに城内のまつりごとのゴタゴタに激しく巻き込まれてきていることを実感した。
・・・
帰宅するとドっと疲れが出た。ベットにうつ伏せになる。
――よーし、エルに土下座してなんとか報酬を得るには……。なんてな。ま、さすがに無理だ。そもそもエルに会いたくない。せっかく花火大会でうまくいったんだ。なぜ状況を悪化させる必要が?
――だがあの夫妻の顔、絶対に引き下がらないタイプだ。
放置すれば所長などにちょっかいがかかる可能性が高い。やはりはっきりとした返事くらいは必要だ。
・・・
ピンポーン。
「? あらガードちゃん」
「エルはいますか?」
「部屋にいるとおもうけど?」
エルの家に行く。ガードの母親と同等の肥満体系の女性が応対したが、ろくに返事もせず去って行く。
「……」
「勝手に上がれと? どうなってんだ」
二階へ上がり、エルの部屋の前で立ち尽くす。
――これが……魔王城に入る前の勇者の心境だったんだな。だが俺にはまだその覚悟がない。いや永遠にない。
ガチャ
魔王城への扉が勝手に開いた。
「ガードくん、部屋の前でなにやってるの?」
入城させられた。
・・・
多少本の多い、なんでもない普通の女の子の部屋だった。というか数年前まで何度も来た事があるので知ってはいた。エルはガードの新式偽装告白の件は何も気にしていないようだ。互いに腐れ縁、性格もあってか多少の喧嘩やこじれなどが起こってもものともしない。
「エル、頼みがある。と言っても俺の頼みじゃない。聞くだけ聞いてくれ」
キャオルという女騎士が居て、先日同じ任務で死亡した。その両親から、キャオルを生き返らせて欲しいと相談されたと、事の顛末を伝える。が。
返事は当然、ノーだった。以前から知っていた。エルはエルの起こした不慮の事故死以外は蘇生は行わない。自然の摂理を曲げてはならないということだ。
これはエル個人の考えというより、さまざまな魔導書や神書などとの契約からなっている。破ればエル自身の魔力の研鑽を失いかねないということだ。
「ま、答えはわかってたよ。じゃあな」
――用が済んだら立ち去ろう。ここにいるだけでMPが無くなる。
「ガードくん、エスティナさんから聞いたんだけど、今度の儀式、来るんだよね?」
「え、あ、いや、それは、考え中だ。御免!」
謎の立ち去り方をした。
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