第7話 - 死線 -

-数日後-


 詰め所で午後への準備中のことだった。


「応援頼む! 応援頼む!」


「ん?」


 慌ただしく勤務中の衛兵団が騒々しくなってきた。


「ガードか、今日はさける人員がいない、この場所へいってくれ!」


 同僚が壁にかかる地図を指さした。そこは城と城下町とはちょうど中間の辺り、大手門からなる外壁より一つ内側で、つかなり西よりの隅のほう、木が数メートルおきに並び、早朝に散歩で訪れる者以外は人気の少ない場所だ。


「了解した」


 ここで理由や内容など確認するヘボはいない。指示には駒のように動く。それが衛兵だ。500メートルほど、移動する。人が見え始めた。


 ――見なれない服、ドウターだな……なに!?


 騎士がすでに3人倒れていた。立っている女性騎士が一人、先日試験を行ったキャオルの姿があった。様子を伺いつつも木陰に身をひそめる。駆け付けすぐに声をかけた。キャオルもガードの存在に気づいたようだ。


「応援に来ました。指示をお願いします」


 2名の濃い青色調の揃いの服を来たドウターらしき姿があり、背中合わせでこちらを警戒していた。両手を前に突き出していた。


「助かる。だが気を付けろ。得体のしれない強力な飛び道具を使う。みての通りすでに騎士が3人、一瞬でやられた」


 ――騎士3人を一瞬で倒すなど、相当な手練れだな。


「甲冑を脱げ、3人とも貫通してやられている。意味がない」


「……もう少し応援を待った方がいいのでは?」


 問いつつも胴のプレート以外の甲冑は外す。


「……」


 沈黙の意図が分かりにくかった。単に提案を拒否されたのか、命令に口答えするなという意味か。


 ――しかしもしや、この女……。


「応答せよ! くそっ、やはり通じない」


 1人がもう1人に背を向け隠れるよに、無線機で通信を始めた。しかし通じないようだ。その背にはPOLICEという字が書いてあった。数メートルのテリトリーの間隔を確保していれば闇雲に撃ってはこないようだ。


 木と木を壁にしつつ、移動しながら相手を狙うとキャオルより指示が入る。討伐(生死問わず)も許可された。


「横に動いている最中は当たりにくい。私が仕掛ける。スキを見て狙え」


 ――なに?


 言い終えるとすぐ飛び出して仕掛けに行く。


 ダン! ダン!


「クッ!」


 拳銃で発砲され、相手に迫り切れずに木陰に隠れる。


 ――早急すぎる。打ち合わせるなり即仕掛けるなど。何を焦っている? しかしあれが飛び道具か。視覚で捕えられない速度な上に1~2撃で必殺とは。


 死の予感がした。ガードたちは戦場において、死に直面した際の訓練も受けている。だが今回は――


「ギャレンティン様、もう一度進言します。応援を待つべきでは」


「……指示に、変更はない」


・・・


 やはりか。


『すまないな、家が厳しくてな』


 あの発言を思い出す。


 ――バカバカしい。戦場に私情を持ち込むなど。


 だが彼女にはそれが全てだということが理解できた。


 ――上官の命令は絶対だ。応援は来ず、そして初めから、俺しか呼んでいない。


 覚悟を決めた。


「先に私が出て両方の的になる。左をP1、右をP2とする。P2を狙え」


「はっ」


 飛び出した。


 ダンダン! ダンダン!


 キャオルが飛び出した瞬間、P1、P2ともに射撃を始める。すぐに進行先の木陰へと飛び込み、ことなきを得る。


 ――交わしたか!


「うおおお!」


 同時に木陰から身を出し、突っ込む。こちらに向き直ったP2とガードの到達はほぼ同時だった。


 飛び道具を剣で弾きにいく。だがキリギリで届かず、交わされる。P2は飛び道具を仕舞い、棒状のもに持ち替えて対面し合った。


 ガッ!


 ガードよりも先行していたキャオルはP1の飛び道具を弾くことに成功した。


「ぐっ、拳銃が!」


 P1も少し交代した後、棒状のものに持ちかえる。


 1人の拳銃という武器は失わせた。ガードから見れば警棒も得体が知れないが、ただの制圧用武器と見て警戒する。


「おおお!!」


 4人が同時に掛け声を出し、踏み込んで攻撃に行く。そして2組がそれぞれ、初撃の打ち合い模様となる。


 ガードとP2は2回打ち合ったところで、ガードの剣の刃がこぼれる。


 ――この棒、なんて強度だ……!


 剣を捨て一気に間合いを詰め、腕のつかみ合いで体術勝負に持っていく、が、相手にも心得があるようだ。


「ぐっ!」


 取っ組み合いになる。柔道のような様相となるが、ガードも相応の心得があり拮抗する。しかし相手の右手に後ろえりを取られており、なにかやらせてもらえる展開でもない。

 

 やがて2人同時にもつれて、踏ん張りが利かなくなる。倒れ込む。となれば寝技のポジション取りだが、相手の方が嫌がりガードを蹴飛ばす。互いの位置がやや離れた。


 その時――


「がああ!」


 !?


 向こう側でP1が、キャオルの剣に胴を貫かれていた。ガードとP2は声に釣られ、同時に向こうを見る。


 ――や、やってくれた、これで2対1……


 その瞬間――


「うああああ!」


 ダン!


 先ほどまでの嫌な音が、真横で鳴った瞬間、キャオルはぐらっと倒れ始める。まさかという反応でP2を見る。P2は、再び拳銃を出し、キャオルの頭を撃ち抜いていた。


 キャオルは、一言も発せず、倒れた。


 !


 向こうを向いて拳銃を打ったP2は目の前でスキを晒している。


「うおおおお!」


 携帯ナイフを取り出し、渾身の力でP2の後ろ首の下へ突き刺す。


 ッ!


 相手の瞳孔どうこうが開く。手から拳銃がこぼれ落ちる。表へ周り、もう一突き入れる。


「なんで、、こんな……」


 P2は言葉をこぼしながら絶命した。涙を流していた。


「ハァ、ハァ……」


・・・


「く、キャオル……殿」


 近づいて確認する。頭から血を流して横に倒れている。


 即死だ。

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