第5話 - 教会で祈る -
教会へ到着する。礼拝堂へ入る前に受付に行く。
「オッサンで」
中へ進んだ。
「ちょっと待ってください」
なぜか呼び止められる。
「?」
「意味がわかりません。ていうか何ですか? その、なぜ止められたか分からない、みたいな顔」
口やかましそうなシスターにとやかく言われる。シスターが天職みたいな女だ。160cm程度の整った顔立ちだが正装をしているので髪型などは分からなかった。
「出会いが嫌なので、神父を所望しただけだ。すでに破綻したがな」
シスターはとても頭が悪そうなモノを見る目でガードを見ていた。
「……神父様は今日は非番です。担当できるのは私だけです。不本意ながら」
こちらの紙へご記入くださいと、礼拝表への記入を促される。相談カウンセリングありにチェックを入れたところで、露骨に眉をひそめられる。
「お入りください」
礼拝堂内部へ行くと、少し遅れてシスターも来る。
「作法はお分かりですか? 分からなければ自分のやり方でお祈りだけ捧げてください。決まりはありません」
ガードは両手を上に広げ、遥か上を見上げるように手をかざした。
「みんな、オラにパワーをっ」
横から怒気を含んだすさまじい視線を感じたので止めて普通に祈った。
「……やり方を知っているなら初めからそうしてください」
・・・
礼拝が終わり、相談室へと通される。兵士はわりと利用する者が多い。シスター目当ての下心の者もいるが、単純に任務の疲弊や、PTSDに陥る者も多いためだ。
「ご相談をどうぞ。無理にお話する必要はありません。心を落ち着かせてください。とくにあなたは」
やけに一言多いのは自分に対してだけなのか、とガードは思いかけたが相談を優先した。
「……最近不運が多い。急に意味のない試験を受けさせられたり、伸びた麺を元に戻されたり、いきなり目の前で人が殺されて即生き返されて」
「……」
全くうまく説明できていないがシスターは普通に聞いている。このような相談者も多いのだろう。
「……エル=スラルさんのとこは聞いています。先ほどの噂も。ただ、彼女も彼女で思い悩んでいます。個人情報は明かせませんが……」
「どうか嫌いにならないであげてください」
「嫌いにはならないが……精神が持たない。文字通り、死のリスクがつきまとってる」
シスターは打ち明けるか少し悩んだ様子を見せたが、やがて切り出してきた。
「来週にエル=スラルさんがここで儀を行う予約があります。立ち会ってみてはいかがでしょう。まずはお互いを知ってみては」
――お互いを知るだと? 俺は幼馴染だ。大概の奴よりエルを知ってるつもりだ。……まあ、事務的なシスターなど、こんなものだろう。
「ま、検討しとくよ。ありがとな。ツケで頼むわ」
「……教会はお代などいただきませんが、あなたはツケにさせていただきます」
カリカリしたシスターと別れ、帰路についた。
・・・
-建国式典-
ガードは王城前メインロードの警備についていた。といっても見栄えのために衛兵が参列しているにすぎない。
やがてパレードが始まり、国王と王妃、それに順ずる高位の有力者達が続々と歩いてゆく。
――あいつは不正するために生まれてきましたってツラしてるな。
個々の顔をみながら適当な感想を抱いて時間が過ぎるのを待つ。最後はキレイに並んで隊列進行し、役目を終えた。
昼になってひと段落し、衛兵もゾロゾロと解散しだしたころ、急に周囲がビシビシと敬礼し始めた。大抵こういう時は何かしらの要人が通過しているときだ。ガードも相手を確認することなく敬礼をする。
ツカツカとこちらに歩いてくる要人は、ガードの前で止まった。
「ガード=カベヤマ二等兵だな?」
「はっ! 異常ありません!」
――こ、この男、宰相……!
「所長に今許可をとってきた。少しつきあってくれ」
「はっ!」
踵を返したので後ろから付いてゆく。用件は分かりきっていた。
――水をかけられた宰相の息女の件だ。バレたんだ。悪人には見えなかったがどのように事実が伝わってるかすら分からない。
「そこに入ろう」
屋外にテーブルの並んだ店に入る。注文をとってからその外の席へ2人で座る。
「急な呼び出しを詫びよう。代金はこちらでもつ」
「それには及びません!」
「定型で応答せずともよい。昼休みだ。私生活通りにしたまえ」
「はっ!」
ガードは緊張を解き、空いている隣のイスへ足を上げ、斜めにもたれかかって手を頭の後ろに組んでくつろいでみた。
――クビか?
「なるほどな、調べと報告の通りだ。自ら多少過剰なアクションを起こし、まずは相手の出方を見る。得た情報を元に、自分が優位に立てるか考査する。機転を利かし、その場をどう収めるか考え行動する」
すでに身辺まで調査されていたようだ。芝居はやめすぐに姿勢を戻す。
「ならば今日の用向きはもう見当はついているな? 答えてみよ」
昼休みと言ったのにもう完全に職質になっていた。
「ご息女様の件、でありますか」
「それ以外は?」
――それ以外? 何もないだろう。エルの件か? いや違う。それなら詰め所の個室で十分だ。
・・・
まあ、こんなのもかと、宰相はふぅっと一息ついた。
「貴様、”ドウター”を、率先して制裁、捕縛しているな?」
――!
ドウター。”Different origin terrible”通称、異界より現れし恐ろしき存在。その略語だ。
「調べはついている。直近のものでも捕縛にはほとんど貴様が関与している。勤務外なら結構な無茶もするのだな? 少年の顔がボコボコだった」
「……」
「所長から聞いている。平穏と安定を望んでいると。生涯年金暮らしが目標だと。この一点に関して、目標と行動が食い違うな?」
――ほとんど調べ尽くされている。どうしてだ? 何が目的だ?
「その年代で将来の年金など、怪しいぞ? お前も見ただろう。国の腐敗を。古いルール。何もしない役人。けれど余計なことはする役人」
「不要なものは一向に消えない。けれど必要なものは延々と許可が下りない。こんな状態がもうどれだけ続いている? 300年もすればほとんどの国など幕を閉じてる。歴史で習っているだろう?」
「年金が支給される前に、国がなくなっているかもな?」
――だからって、俺は生き方を変えられない。立場が国の最高権力者、宰相だ。いろんな人間とのしがらみがあるのだろう。そうだったとして――。
「なぜ、それを私にお話しになるのでありますか?」
・・・
「ガード=カベヤマ二等兵。密命を言い渡す。娘、フローラ秘書官と協力し、ドウターの動向に関与する者をあぶりだせ。そうだな。年金くらいの報酬はやる」
――!?
「多少、通常任務に支障が出ても、何か掴めそうな場合はこちらを優先せよ。職務に問題が出た場合はこちらでなんとかする」
「お前がなぜ、ドウターに対して、特別な感情を持っているかは、分かっているつもりだ」
――全て見抜かれていたとは。
「第一話を10回読んでも分からん人間には分からんがな」
「神に語りかけるのはやめろ」
「以上だ。報告はフローラへ。なるべく私には直接言うな。周囲に勘ぐられたくない」
「了解……、しました」
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