第3話 - 続く試験2 -
-翌日-
平常勤務時と同様に着替えたガードは試験場へ向かう。夕べからエルとの憂鬱な2日間のことしか頭になく、何も考えていなかった。
「ん?」
少し先に品格のある女騎士が歩いていた。その者もガードに気づいたようだ。本日の試験参加者と見て取れる。あのような家柄の騎士がなぜこの一般昇進試験程度のものに臨むのか、ふと疑問も浮かぶ。
入るとすでに他2名が、先に待機していた。これで全員揃ったようだ。さきほどの女騎士に、平凡で雑なヒゲの反り方をした兵士、黒ずくめの忍びがいた。
――忍者がどうやって近衛になるんだ? まあいいか。
素っ気ない下は地面のグラウンド。それぞれが適当に外周の石段のスタンドに荷物を降ろし、準備を終える。4人が並んだ。
「揃ったようだな」
先日の司書官と一人の審判員がいる。客席には4.5人がいた。新聞を読んでる老人、どうみても報道関係、次の利用者目当てで先に来た人間。和服のコスプレをした女。誰もガードたちの試合などに興味はないだろう。
「司書が進行役で悪いが、裁量を預かっているのでそのまま行わせてもらう。勝負は練習剣で行う。さっそくだが対戦者を発表する。一回戦、ガード=カベヤマ vs キャオル=ギャレンティン」
極めて上から目線で淡々と進行を告げられる。司書官殿は侯爵家の出自だと言う。
「二回戦は――」
ついにガードの苗字が明かされた。ことはどうでもよく、一回戦は名前からしてこのキャオルと呼ばれた女騎士だろう。試験場に入る前に見た騎士だ。するとそのキャオルが急に質問をする。
「すまない、私の相手がまだ来ていないようだが」
「……」
――いや、いるだろ。横に。なんのつもりだ。
「貴公の相手は左にいるカベヤマだ」
司書殿が答える。するとこちらを驚いた表情で見た。
「ん、そうだったのか。すまない。警備の兵士だと思っていた」
「……」
――たしかに、俺は勤務時の支給装備でここに来ている。だが……。気が変わった。わざと負けるのはやめだ。ひんひん言わせてやる。
「では1組目、前へ! 2組目は下がれ」
「あ~、まってほしい」
審判員の中の老人が不意に一歩前へ出てくる。
――さっそく始まったか。おそらく何もしてないのに税金やあらゆる手数料だけピンハネして生活するどっかの法人のクズだろう。何か発言して仕事したことにしたいらしい。極めて無駄だ。
「どうだろう、一人、一人、試験への意気込みを聞かせてくれないか?」
「……そちらから順に述べよ」
司書官も空気を読んで付き合うことにしたようだ。
「全力を尽くすでござる」
「北区の代表として恥じぬよう、
「騎士の誇りと志を以って、参らせていただく」
「ひんひん言わせてやる」
「ん?」
「ひ、品格をもって臨みます!」
・・・
1組目が出合う。先ほどの女騎士、キャオルと中央にて向かい合う。
「はじめ!」
開始の合図がなされた。
「すまないな、家が厳しくてな、1から学んでいくようにと、この試験も受けさせられた」
何やら聞いてもいないのにキャオルとやらが語り出す。つまり、負けてもお前は恥じゃない、そう言いたいのだろう。
――とことん舐めた奴だ。叩き潰す。
ガッ! ガッ!
一瞬の飛び込みから二連撃を受ける。
「……」
――無理だわ。勝てねえ。
もう手がしびれている。その170cmほどもある恵まれた体格に鍛え上げられた筋力、打ち込みは想像以上に力強いものだった。数合も持たないだろう。そしてもう数撃、受けたところで、ついに地面に剣を突き立ててしまう。
「……審判」
キャオルが不意に審判を務める司書に質問をする。
「どうした?」
「この試合で使える武器は、練習剣だけなのだろうか?」
「?」
「貴公、剣使いではないな? フェアではない。彼の主要の武器にすべきだ」
「……カベヤマ、練習用なら槍などでもよい。所望はあるか?」
「では槍で」
キャオルはふっと笑った。ガードは槍に持ち替え、構えを取って一言だけいう。
「余力はない、次で決めさせてもらう」
ガードは宣言した。
「受けて立つ」
「……」
同時に踏み込む。
――ッ!
一瞬で2人が交錯する。
そして――
ガードは振りぬいた動作をゆっくり解き、佇む。
キャオルもまた、ふっと笑い、言った。
「私の――」
「勝ちだ」
ガードはうつ伏せに倒れた。
・・・
2回戦は見なくてもよいだろう。
「では、勤務がありますのでこれにて」
早々に立ち去る。背中にはまだキャオルの鋭い視線が刺さっていた。
――剣使いでないことを、本当に見抜いたのか? 当然だが俺は……。
槍使いでもない――
気になることがあった。ガードはそのまま勤務地へ向かわずに……、
医務室へ向かった。全身が痛かった。
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