第2話 - 続く試験 -

この物語は対人バトルファンタジーメインです。モンスター討伐ものではありません。


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 極めて勤勉に職務を終え、帰宅すると目の前にガーゴイルがいた。


「な!?」


 ――上級悪魔がなぜここに? まずい。今は武器が何もない。せめて家には入れれば……。そもそもなんでこんなクラスの魔族が入ってこられる? 結界が機能しているはずだ。


 よくみると魔法アイテムなどで本来の力を抑えていた。それで結界を通過したのだろう。しかしどうすればよいのか分からない。


「ま、まってくれ!」 ×2


「……え」 ×2


 ガードとガーゴイルセリフが被った。


「た、頼む! 応援を呼ばないでくれ! 何もしない!」


「何もしないだと? なら俺の家の前でなにをしてる」


 先にガーゴイルから切り出してきた。本当はビビっているが相手の態度が弱めだったのでちょっと威圧的に出てみる。


「いや、用があるのは隣の家だ……」


 !?


「……」


「そ、そうか。事を荒立てるなよ。じゃあな」


「あ、ああ」


 なぜかお互い気まずくなり、ガーゴイルは背を向け、ガードはそそくさと家に入っていった。


・・・


 バシュッ バシュッ


 試験は明後日だ。日課の鍛錬を行う。やるのは数カ月ぶりだ。日課の鍛錬を終えた。


・・・


 翌日も通常任務だった。ガードは王国衛兵、いわゆる公務員にあたる。午前の勤務を終え、昼休みとなり食堂へ来ていた。ここは兵士や王立の庁舎勤めの者達が一同に使うオーソドックスな広い食堂だ。


 ガードは麺類めんるいを注文して一人で席をしていた。


 !?


 ズウゥゥゥゥゥゥン……


 ――!


 圧倒的な魔力の気配を察知する。息が詰まる。食堂の空間自体の雰囲気が異質になる。それはゆっくり後ろから近づいてきていた。


 確実に。ここに。


 比較的近くに居た、他の座席の客達はソレに目も合わせず立ち去っていく。ガードは一歩も動けなかった。手が小刻みに震えだすのを抑えることに必死だった。


 そして――


「ガードくん。久しぶり、元気?」


・・・


 横に来たソレが話しかけてくる。もちろん声の主は初めから知っていた。だからガードだけが動けなかった。


 ――く、空中に浮いていやがる……


「ひ、ひさしぶりだな。元気だったぞ」


 なんとか応える。テーブルの横に立ち、いや、浮いたままこちらを見てくる。一般の研究者職員の魔法胴衣のローブに、目が、赤い。瞳に深い紋章のようなモノまで見える。


 身長は150cmそこそこ、髪型は普通のミディアムからやや短め程度だが、こちらも髪の色がゆっくり濃い青から紫、やがて赤へとまた繰り返し変化し続け、安定しない。余りにも強い魔力の前に正気すら失いそうになる。


 それは、幼馴染だった。


・・・


-幼少期-


「俺は将来、植物園をやりたい!」


「ガードくん、盆栽に詳しいもんね。私は魔法の本屋さんをやりたいな」


「できるさエル! お前もたくさん本読むもんな」


・・・


 その結果、こうなった。隣の家の幼馴染は、魔法書の読書にあけくれ、元の才能にも恵まれ、あらゆる魔法、魔術を網羅もうらし、魔法アイテムを研究し、ガードと同じ年で王立魔法研究所へ就職したときにはすでに、誰よりも魔法に長けていた。


 普通の人間なら正気を保っていられないような禁術や魔界の魔法まで精通し、それでも学ぶことをやめない。またさらに魔力の底が深くなった。


 というより、魔力がダダ漏れでコントロールできていないのではないか、というのが周囲が避ける理由だった。この国最高の魔導士と囁かれる大魔導士、ルーファウスという者ですらしのぐのではないか。


「最近、会ってないのに急にごめんだけど、お願いがあって……」


「お、お願い? めずらしいな、どうした?」


 まだどもってしまう。エルの表情は至って普通だ。目の色はおかしいが。


「えっとね、試験てのがあって、研究者でも、一定の実技が示せないと、免許が更新できないんだ。それで相手を探してて。2人1組の対戦試験なんだ。それをお願いしたくて」


 ――また、試験か。いやこの時期だからいろいろあるのか。古臭すぎる。こんなふざけた才能の奴なんかさっさと昇進させろよ。いつまでも古い習慣でルールを変えないからこうなるんだ。


「……分かった。だが明日は俺も試験で無理だ。日にちは?」


 ガードはエルの気分を損ねないようにすることを最優先して行動することにした。なにかされたら確実に死ぬ。これはジョークじゃない。現に周りに誰もいない。


「あ、ありがとう。えっとね。4日後だよ」


「了解した」


「あ、あとね」


 !?


 ――まだ、あるというのか。早く解放されたい。このプレッシャーから。


「お母さんたち、週末の花火にいけなくなったんだって。代わりに行ってきなさいって」


 ガードは絶望した。


 ――死ぬ。


「なんだかニヤニヤしてたけど、ガードくん、最近あんまり話せてなかったから、気晴らしに行こうよ。試験の手伝いのお礼だよ」


 お礼の感覚が男女で違うのはこの際いい。このエルと建国祭の花火観覧など、常軌じょうきしている。


「了解した」


 睨んでもいないヘビ相手にカエル以下のガードはなすすべがなかった。


「あ、じゃあ、2日間よろしくね」


「エ、エル、聞きたいことが……」


「ん?」


「昨日、ガーゴイルが訪ねてこなかったか? たまたま見かけた」


 ――まさか、殺したりなんてことは……。いや別に友達じゃないからいいけど。


「あ、うんうん。なんかね、魔界の城、ウォルダートに来て欲しいってもう3回誘われてるんだ」


 ――あれって、物語の中だけの城じゃなかったのか。


「そ、それで?」


「研究で忙しいから無理って何度も断ったんだけど、そこをなんとかって。必死でかわいそうだから、魔界の本を3冊貸してくれたら一回だけ行くっていっちゃった。翻訳ほんやくできる保証はないって言われたけど、ちょっとたのしみ」


 つまりスカウトということだろう。しかし敵側からのスカウトなど聞いたことが無い。これだけの魔法の才能を放置しておけないということか。


「じゃ、そろそろいくね。あ、伸びた麺戻してあげるね」


 一瞬で麺が伸びる前どころか食べる前までに戻った。


「ふ、復元……!」


 再生でもすごい魔法なのだが、復元など見たことがなかった。エルは宙に浮いたままスーっと退出していった。


・・・


 帰宅する。


「おい!」


 炊事中の母親に花火の件を苦情しようとした。しかし一瞬で思いとどまった。母親からエルに何かチクられた際の恐怖が頭をよぎったためだ。


「?」


「なぜ台所にトドがいるのかとおもっただけだ。じゃあな」


 晩飯が一品になっていた。

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