第2話 フリント王国 2
いきなり現れた創造神の言葉にクリスは、今まで感じていた違和感の答えを見出した気がする。身分や貧富の格差は、俺達が勝手に作り出す。戦争や他種族への嫌悪などは、お互いに軽蔑しているからか。
「この世界の秩序は、この世界に住む者が作り出したと言う事ですか?」
「その通りだ。私はこの世界を創造し、お前達に与えた。私の創り上げた世界を繁栄させるも、滅亡させるもお前達次第だが、残念ながら全ての命は、己の欲の為に多くを欲する。そんな事を繰り返せば、いずれこの世は・・・」
「神の創造した命の愚かな行動を見ても、悲しくならないのですか?」
「悲しくは無いが、楽しくも無い。私が望んでいるのは、私の創造を越える行動や考えをする命だよ」
「それは、神の意思に沿った世界を作る行動ですか?」
「違う。私の意思では無く、私を楽しませてくれる行動だよ」
クリスは、神の話す内容が理解出来ず、渋い顔をした。
「難しいですね。でも、本当は俺も自由に生きてよかったのですね」
「そうだよ。創造された事を嬉しく思う生命が増える事が、私の喜びなのかも知れない」
こんな戦争で命を落とす予定になるとは、クリスは残念に思う。
「神よ、最後に教えてもらえた事を感謝します」
「最後では、無いな。私に興味を抱かせた命をそう簡単に終わらせる訳が無いだろう。お前には、私を楽しませる責任がある」
「そんな、無茶な。俺は、グランノベル王国の騎士に囲まれているのですよ。それにあなたが思うような出来た人間ではありません」
「出来の良い子より出来の悪い子の方が可愛いだろ」
「きっと平凡な一生で終わりますよ」
「どうだろうな。そうならないようにお前には、私の力と神剣を与える。力があれば、平凡にはなるまい」
「そんな力を貰って、自由気ままに暮らして良いのですか?」
「私の気まぐれに付き合うのだ、良い条件だろ」
「後で後悔しても知りませんよ」
創造神クルシュトワは、手を前にかざすと剣が現れた。
真っすぐ伸びる細身の片刃の剣、刀身には見たことも無い文字が刻まれている。
妖艶に輝く剣は、騎士が使う剣より少し長い感じがする。
「クリス・アラートよ、我が御名の元神剣と加護を与える。では、よき旅を」
クリスが神剣を受け取ると、創造神の姿は消えた。
戦場に時間が戻る、クリスの目の前には敵国の騎士達が今にも飛び掛かって来そうだ。若い騎士を打ち自分の手柄を増やそうと考える騎士達は、理性を失った目をしている。
クリスは神から与えられた神剣を構えると、周りから笑い声が聞こえた。
「刀身の無い剣を構えているぞ。殺される気満々だな」
「何を・・・」
神剣を見ると柄しか無い。創造神から与えられた時に見た刀身は無かった。
あれは、死ぬ前に見る走馬灯の様なものだったのか、一時の夢に自由を見出した自分をクリスは恥ずかしく思った。
“しっかりしなさい、刀身はお前が望めば具現化される。今この状況を打破するために、私が与えた力を使うのです”
直接クリスの頭の中で創造神は話しかけた。彼は、半ばやけっぱちで両手に持つ神剣を天に掲げ神から与えられた言葉を唱えた。
「我が御名により命ずる、神の鉄槌!」
雷鳴の様な轟と閃光がクリスを中心に広がって行く。
大きな光のドームに吸い込まれた兵士達は敵味方関係なく声を上げる間もなく、次々に消滅する。同時に地面に転がる死体も消えてしまった。
光が消えるとクリスの周りには誰も居なかった。人だけで無く生きる物全てが、消滅してしまった。凄まじい力を手に入れたクリスは、後悔より恐怖におののく。むやみやたらに使える力では無いと、彼は感じたのだ。
自由に生きる決心をしたクリスは、着ていた鎧を全て脱ぎ捨て自国を背に戦場を離れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます