お正月
日の出が出てくる数分前。
山頂の柵の前にいながら、姉ちゃんといつ兄と思い出話をしていた。
「あー、今年もなんやかんやあったねぇ」
「主に姉ちゃんのせいでね」
「あ、ひどーい!私だってそういうことわかってるんだからねー?」
「じゃあちゃんとしろよ」
「し、してるよー!?」
いつ兄がふふっと笑う。
「仲良しだねぇ」
「「全然仲良くない!!」」
「はは、そういうとこだよー」
ぽす、と頭に手を置かれた。
そのまま撫でられる。
大きな手が、ちょっと気持ちよかった。
「僕はね、二人がそうやって仲良くしてくれてるところが一番好きなんだ」
穏やかな顔でいつ兄が言った。
どこか遠くを見つめて。
「ほんとはね、僕らは離れ離れになる予定だったんだ。施設に入れられたり、親戚の人が引き取ってくれたりするらしかったからね。でも僕はもう家族を失いたくなかった。だから、僕の身勝手で君達を引き受けたんだよ」
びっくりした。
例の事件が落ち着いた頃から三人だったから、いつ兄に引き取られるのは当然のことだと思っていた。
離れ離れになってたなんて信じられない。
「二人がね、学校も卒業して、大きくなって、結婚して、この家を出て行っても、僕はきっとあそこにいると思うんだ。父さんと母さんの、あの家にね。だから、何かあったら帰っておいで。出迎えるくらいのことは出来るから」
優しい言葉にちょっとうるっとくる。
この一年で俺は涙もろくなったらしい。
姉ちゃんがいつ兄に抱きついた。
「えへへ、何言ってるのー、もう!」
「…そうだよ、いつものいつ兄と違うよ、今日は」
「え、えぇー?そうかなぁ?」
「そーだよ!もしもみつくんとの子供が出来たら、お兄ちゃんに見せに帰ってくるからねー」
「おいおいまじかよ…」
もしも。
もしも姉ちゃんに子供が産まれたりしたら、俺はお兄さんになるんだろうか。
いいお手本のお兄さんになれるのだろうか。
かと言って今みたいに妹に抱きつかれてデレデレした兄には絶対になりたくないが。
「ほら、朝日が出てきたよ、二人とも」
きっとこれからも俺らは三人でやっていくんだろう。
そんな気がした。
「ほわぁ…!きれい…」
「ほんとだ、綺麗だねぇ」
日の出がキラキラと輝いて俺達を照らす。
「あ、あの言葉言ってない!」
「あ、ほんとだ」
「いっせーのでで言う?」
「姉ちゃん、彼氏には送ったの」
「今送ったー」
「仕事が早いことで」
「じゃあ、いくよー!」
三人で頭を突き合わせて言う。
「「「あけましておめでとうございます」」」
「「「今年もよろしくお願いします」」」
新しい年が始まる。
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