大晦日

ゴーン、ゴーン、と除夜の鐘が鳴る。

「…さっむ…」

深夜十二時。

俺達は家からほど遠い行きつけの神社で、除夜の鐘と日の出を見に来ていた。

「…あー、寒い」

「ねー、寒いねぇ」

いつ兄が隣にきてぴっとりと引っ付いてくる。

それを押しのけながら、後ろで電話してる姉ちゃんに声をかけた。

「えへへ、そうなんだぁ。わ、たまくん?」

「前見ろよ。列進んでるだろ」

「あ、ほんとだぁ。ありがとー」

ほえほえした笑顔を向けられる。

よほど彼氏と電話してるのが嬉しいんだろう。

「あともうすぐで僕らの番だよ、恵ちゃん」

「はぁい。あ、それでね、みつくん…」

にこにことして電話を続ける姉ちゃんは、珍しい服装だった。

紅色の着物に色とりどりの桜が散りばめられている。

首元に白いもこもこしたやつをつけて、髪をお団子に結っている。

つまり、振袖和装だ。

いつもはワンピースなどの洋服系なので、ほんとに珍しい。

しかも、去年などは彼氏と出かけてて、この時期は家にいなかった。

はぁー、と長いため息をつく。

息が白い。

小さい頃は目を輝かせて見ていた景色も、もうだいぶん見慣れてきた。

「ほら、次だよ」

いつ兄がにこにこと呼ぶ。

今日は弟も妹も一緒だから、とても嬉しいのだろう。

姉ちゃんに声をかけて、三人で鐘の前に並ぶ。

「ほら恵ちゃん、電話おしまい」

「姉ちゃん、後からにしてよ」

「うぅ…一旦切るね、みつくん…」

電話をしまった姉が俺の隣に立つ。

俺が真ん中かよ。

「さぁ、たまくん、除夜の鐘うって」

「たまくん早くー」

「うっさいなぁ…わかったよ…」

両手で縄を持つと、とても冷たかった。

力を込めて鐘を鳴らす。


ゴーン、ゴーン、ゴーン、ゴーン…


深夜に百八の鐘が響く。

どうか。


これからも三人が幸せでありますように。


日の出はもうすぐだ。

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