雪
朝から雪が降っていた。
「姉ちゃん、雪降ってるよ」
姉ちゃんの部屋に行くと、ぐすぐすと泣いている姉ちゃんが見えた。
うわお、
「…姉ちゃん」
「ぐすっ…ぐすっ…ひっく…」
「今度はなに泣いてんの」
ベッドの近くにいくと、くまのぬいぐるみをぎゅっと抱いて寝転がった姉の姿。
「…そーくんに、こわいって、いわれた…」
またか。
何回この手のことを言われただろうか。
「またか」
「…っ!今、またかっていったぁあぁあ!!」
「あ、やべ」
しまった、心の声が。
「お、落ち着け姉ちゃん、な?大丈夫だって…」
「大丈夫じゃないもん!!たまくんきらいっ!!」
喚いて泣き叫ぶ姉。
もうなんか、俺の方が泣きそうだよ。
突き放すにも、突き放したらきっと前みたいに自殺しかねないからなぁ…。
そういえば、その日もこんな雪の日だった。
*°.・
雪が降っていた。
「とーさん、かーさん!」
朝起きて、雪に興奮した俺は二人に伝えようと、リビングの扉を開けた。
「ゆきふってるよ!あそ、ぼ…ぅ…」
真っ赤な部屋だった。
鉄臭い匂いでくらくらする。
なんだ、これ。
部屋の椅子近くに母さんがいた。
ベタベタする紅い床を歩いて、母さんをゆすりにいく。
「か、かあさ、おきて、かーさん…おかーさん!」
ぐったりしている母さんの手首。
切り刻まれたみたいに傷があって、周りには紅い染みが広がっていた。
傍に、カッターナイフ。
あまりの衝撃にその場にぺたんと座り込む。
手がナニカに触れた。
父さんだ。
「とーさ、とーさん、おとーさんっ!」
父さんの手首にも母さんと同じ傷。
そこから流れ出す赤いのが床を、部屋を真っ赤にしていた。
いつまで経っても起きない母と父。
なんで。
おれをおいてくの。
なんで。
だまっていくの。
なんで。
おれもつれてって。
その言葉が頭に埋め尽くされた時、俺の意識は途絶えた。
*°.・
その日から俺は赤い色とカッターナイフがダメになった。
目の前でまだぐすぐすぐずっている姉を窓際に引っ張る。
「ほら姉ちゃん、雪降ってるよ」
「…ぅうっ…ほんとだ…ゆき…そーくんとあそびたかった…ぐすっ…デート…」
「もうしっかりしてよ…」
ため息。
どうしようかと途方に暮れた。
目の前でまた死のうとされたらそれこそ困る。
またあの日みたいになる。
父さんと母さんみたいなことはもういやだ。
「っはぁ…なんでこうもうちの家系は皆メンヘラなんだよ…」
二回目のため息をつく。
窓の外で、雪がふわふわと降っていた。
がんばれって応援してるみたいに。
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