ハイキング

「えー…じゃあ自由班を作れー」

そんな担任の掛け声と共に、両脇をがっちり柚と和に押さえられた。

「うわっ」

「ふっふっふっ、やあやあやあ、環くん」

「ついにこの時がきたようだね、環くん」

「え、え、なに、なんなのお前ら」

ニヤニヤによによと二人が俺を引っ張る。

そのままずるずると引きずられるようにして、ハイキングのハードコースに並んだ。

…いやおいまてこら。

「お、俺、体力ないんだけど…」

和は今まで不良共とケンカしたせいか鍛えられているし、柚も柚で陸上部に所属していたらしく足が速い。

つまり。

このハードコースにきたら、二人に置いてかれること請け合いなのである。

「いやだって!俺隣のゆったりコースでいいよ!」

「ダメでーす。一人だけ仲間外れはいじめみたいだろ?」

「そーだそーだ!」

むしろ今この状況がいじめなんじゃない?

そんな必死の叫びも虚しく、ハードコースへと連れ拐われた俺だった。


視界がグラグラする。

「ぜぇ…はぁ…ぜぇ…はぁ…」

俺は息ができないでいた。

山登りなんかしたのはいつぶりだろうか。

「ほら!あともう少しだぞ環!」

「みろ!頂上につくぞ環!」

「お、お前ら、う、うるせぇ…」

しんどくて苦しくてもう泣きそうだ。

…絶対こいつら後でしばく。

頂上まで登りきる。

「うおっ!!すげぇ!!」

「見てみろよ環!!やべぇぞ!!」

柚と和が無駄にテンションを上げて、俺を引っ張る。

ぜぇぜぇ言いながら前を向くと。


夕陽が沈んでいた。


とても幻想的で綺麗な風景だった。

ここまで登ってきた苦労が泡のように消える。

「…うお、すげぇ…」

思わずカメラでパシャパシャと撮る。

たまにはハイキングもいいかもしれない。


けど、帰ってから姉ちゃんにきゃーきゃー言われて抱きつかれるのと、次の日の筋肉痛には答えた。

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