初秋

涼しくなってきた。

が、台風が多い季節にもなってきた。

今日も一日、雨が降り続いている。

ちょっと憂鬱だ。

「たまくーん、ご飯ー」

「わかった、今行く」

今日は仕事が休みないつ兄にそう返事してから本を置く。

ゆっくりするにはやっぱり読書に限る。

あくびをしてからリビングに行くと、とてもいい匂いがした。

いつ兄がいい笑顔でじゃーんと食卓に乗ってる料理を見せる。

「今日は焼肉にしてみましたぁ!」

「ふーん、美味しそうじゃん。そういえば姉ちゃんは?」

いつもならいの一番に机の前に座る姉ちゃんがいない。

するといつ兄は、さっきとはうって変わってしょんぼりとした。

「恵ちゃん、部屋から出てこないんだよ…何かあったのかな…」

そういや、昨日一目惚れの人に告白したと嬉々として報告されたな。

一応部屋の前にいって様子を見る。

「姉ちゃん?大丈夫?ご飯出来たって。今日は焼肉だよ」

静寂。

…いや、静かすぎる。

ちょっと心配になってきたぞ。

ノックをしてから扉を開けると、真っ暗な部屋の中心で倒れてるずーんとした重い雰囲気の姉ちゃんがいた。

「うわっ!?」

思わず悲鳴をあげる。

「ね、姉ちゃん?どしたの?」

慌てて近寄ると、姉ちゃんは泣き腫らした瞳で俺をみた。

俺の顔をみると、ぶわっと泣き出す。

「え、え、え、な、なに?ど、どうしたの姉ちゃ…」

「う、ぅああああああん!!」

姉ちゃんは泣き叫びながら言った。


「ふ、ふられたのぉおお!もういやぁあ!私も死ぬぅうぅ!!」


手に持ったカッターがきらりと光る。

「っばか!!」

押さえつけてそれを奪うと、姉ちゃんがその場に蹲って泣き出した。

「うぅ…ううぅう…!なんでとめるのたまくぅうん…!死なせてよぉおお…愛される価値ないんだよぉおお…」

ぐすぐす言う姉ちゃんにため息をつく。

「…またふられたの」

「うぅ…ぐずっ…うん…」

「この前もそう言ってまた新しい人見つけてきたでしょ。今度も大丈夫だよ」

「ふぇぇ…でもぉ…」

「ほら、立って。ご飯食べよう」

「ぐすっ…」

姉ちゃんの手を取って立たせてからリビングへ行く。

いつ兄が俺たちを見て優しく笑った。

「やっと出てきた。ご飯冷めちゃうよ?」

いつもの定位置につく。

「はい、じゃあ手を合わせて」

焼肉のいい匂いが鼻につく。


「「いただきます」」


いつ兄と同時に言ってお箸をとる。

すると姉ちゃんももぞもぞとお箸を動かし始めた。


「…いただきます」


ぱっくん。

焼肉を食べた姉ちゃんはまたぽろぽろ泣き始めた。

「うぅ…ぐすん…」

「えっ、恵ちゃんどうしたの、もしかして何か入ってた!?」

あわあわするいつ兄に姉ちゃんは泣きながら言った。


「ううん、おいじい…」


開いた窓から食卓に秋風が吹く。

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