046 宮島仁美

 10月が始まった。


「やっぱり二人だと静かになるよねー」


「ポポロが一番明るかったからなぁ」


 ポポロがいなくなっても、龍斗たちのやることは変わらない。


 琵琶湖でクラーケン狩りだ。


「あれ、もうレベルが上がった」


 仁美が驚いたように言った。


「ポポロがいなくなったからだな」


「そっか、人数が減ったから分配される経験値の量が増えたんだ」


「そういうこと」


 ゲームと同じく、得られる経験値の量はPTの人数で割られる。二人なら二等分、三人なら三等分だ。


 ポポロが抜けたことにより、二人が得る経験値の量は1.5倍になった。


「ということは、つまりクエスト報酬も……」


「1.5倍――一人あたり1500万になるわけだ」


「うはっ、日給1500万円って、年換算したらいくら稼げるの!?」


「年に200日働いた場合は30億だな」


「すっご。そんな美味いクエストを独占しちゃっていいのかなぁ」


「別に独占しているわけじゃないけどな。他にやりたがる人がいないだけで」


「それもそっか」


 仁美は豪快に笑いつつ、チラリと龍斗の顔を見る。


(自分の気持ちに正直になれ……か)


 ポポロが別れ際に言ったセリフを何度も反芻した。


 ◇


 ポポロの脱退によって、経験値が加速した。


 その効果は凄まじく、二人のレベルはモリモリ上がっていった。


 そして10月末、ついにその時はやってきた。


「やったぞ、レベルアップだ!」


 龍斗は目標としていたレベル150に到達したのだ。


 これは冒険者の中でも極めて高い。彼より高いレベルの冒険者は二人しかいない。


 レベルの高さではまだ上がいるけれど、攻撃力の高さに関しては世界で最も高かった。龍斗の〈チャージキャノン〉の破壊力は文句なしの世界最強だ。


 膨大なクエスト報酬によってお金もたんまり貯まった。まごうことなき億万長者だ。


「明日は金曜日だけど休むとするか。で、来週からは新しく――」


「待って」


 漁船をレンタル場に向かわせながら、仁美が言った。


「そのことで話があるの」


「話? どうした?」


「旅館に戻ったら話すね」


「あ、うん、分かった」


 龍斗には仁美の言いたいことが分からない。


(もしかして何か怒らせるようなことでもしたのかな)


 そんな風に思ったが、思い当たる節がなかった。


 事実、龍斗は仁美が怒るようなことはしていない。


 仁美の用件はそんなことではないのだ。


 ◇


「さて、と」


 二人は旅館に戻ってきた。


 いつもなら別々の部屋で過ごすのだが、今日は話があるとのことで、仁美が龍斗の部屋に来ていた。


「実は言いたいことが二つあってね」


 広縁ひろえん――旅館の窓際にあるスペースのこと――の小さなテーブル席で向かいあって座ると、仁美は口を開いた。


「私、今日でPTを抜けようと思う」

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