044 有名人

 クラーケンを倒したことで龍斗たちは有名になった。これまでは功績を自慢することなく目立たぬようにひっそり活動していたが、今回ばかりはそうもいかない。どこからともなく大量のマスコミが駆けつけてきていた。


「陣川君、今のお気持ちは?」


「望外の喜びです」


「望外……!? 15歳の子が望外なんて言葉を知っているだと……!?」


 ざわざわ、ざわざわ。


 龍斗は地上波デビューを果たしてしまった。


 テレビではチャンネルを問わずに龍斗のことが報じられている。


 キャプションは「神童現る」やら「天才冒険者」やら。


「レンタル場の職員によると、今後も継続的にクラーケンを倒していくとのことですが本当でしょうか!?」


「はい、本当です。150レベルになるまではクラーケンを狩り続けます」


「150!? りゅ、龍斗君は今、何レベルなのですか!?」


「110です。いや、さっきクラーケンを倒して114になりました」


「114!?」


「15歳で114レベルだなんて信じられない……」


「凄すぎる……」


 数日間、龍斗に関する報道が止むことはなかった。


 ◇


 2週間後。


「流石にマスコミもいなくなったねー。見物客もいないし」


「隠しているわけじゃないから好きなだけ観てくれてもいいけど、やってることはいつも同じだから飽きるわな」


 龍斗たちは変わらぬ調子でクラーケンを狩っていた。


 彼らの活動は朝に始まり朝で終わる。早朝に旅館を出て現地に移動すると、サクッと狩って終了だ。今までと違って汗をかくことはなく、諸々を含めても30分とかからなかった。


 それで稼ぎは一人当たり1000万円。


「これだけ楽に稼げたら頭がおかしくなっちゃうよ。もう他の狩りとかする気しないわ、私」


「わーいわーい、お金持ちなのですー!」


「あっという間に億万長者だからな」


 前に豪邸を買ったというのに、龍斗の貯金は2億円を超えていた。


 仁美やポポロについても同等、いや、それ以上のお金を蓄えている。


「今日もお疲れ様、龍斗君! いや、龍斗様と言うべきか? ガハハ!」


 漁船を返却した龍斗に対して、レンタル場のおっさんが最高の笑みで言う。初めて話した時とは別人のようだ。


「今日の夜、この近くで祭りがあるよ。よかったら顔を出してくれ。龍斗君は滋賀の英雄だからみんな喜ぶよ」


「気持ちはありがたいけど今日は外せない用事があってね。これから東京に戻らなければならないんだ」


「それは残念だ」


「また機会があったらよろしく」


 龍斗たちは蓬莱駅に向かって歩いていく。


「ごめんなさいなのです、龍斗」


 ポポロがしょんぼり顔で謝る。


「謝らなくていい。前から決まっていたことなんだから」


「いよいよかぁ……寂しくなるね」


 しみじみする三人。


 今日は9月30日――ポポロがエルフの里に帰る日だ。

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