043 クラーケン

 龍斗はレンタルした二隻の内、木造の帆船を先行させた。


 そして、もう一隻の漁船に三人は乗船する。


「仁美、距離を詰めすぎるなよ。巻き添えを食らいかねない」


「分かっているわよ!」


 漁船の操縦をするのは仁美だ。


 龍斗とポポロは甲板でまったり過ごしていた。


「そう言えばポポロ、クラーケンのクエスト報酬っていくらだっけ?」


「3000万円なのです!」


「すると一人当たり1000万か、これまでとは桁が違うな」


 クラーケンを野放しすることによる経済損失は1日当たり数億円。


 そのことを考えると、クエスト報酬の3000万は安いとすら言えた。


「龍斗、そろそろじゃない?」


 操縦席から仁美の声がする。


「準備するか」


 龍斗は〈チャージキャノン〉を発動した。


「ポポロは仁美の傍にいるんだ。うっかり落ちたらいけないからな」


「はいなのです!」


 テクテクと甲板から離れていくポポロ。


 彼女が操縦席に着いたところで、クラーケンが姿を現した。


 無数の巨大な足が水面より出てきて、先行する帆船に絡みつく。その足はうにょりうにょりと甲板に向けて伸ている。


 ほどなくして本体が現れた。巨大なタコ頭だ。


「仁美、ストップだ」


「了解!」


 仁美が漁船の甲板をクラーケンに向けた。


 龍斗は砲門の照準をクラーケンの頭部に合わせる。


「少し距離が離れているが……まぁ大丈夫だろう」


 龍斗は攻撃を始める前にステータスを確認した。


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【名 前】陣川 龍斗

【レベル】110

【攻撃力】111

【防御力】1


【スキル】

①フィールドクリエイト:1

②チャージキャノン:92

③スパイダーウェブ:15

④グラビティプレス:1

⑤スプレッドフェニックス:1

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 ステータスポイントとスキルポイント、共に振り忘れはない。


「その船が囮とも知らずに呑気なものだぜ」


 今回の作戦も単純明快だ。


 無人の帆船を囮にしてクラーケンを水中からおびき出し、漁船からキャノンをぶっ放して狙撃する。


「龍斗、チャージが終わったのです」


「分かっているさ」


 一発勝負だ。


 龍斗は照準を再三にわたって確認する。


 問題ない。


「我が理論の前にひれ伏せ!」


 キャノン砲が火を噴いた。


 一筋の光の砲弾が尋常ならざる速度で放たれる。


 それは帆船によじ登ろうとするクラーケンを的確に捉えた。


「フシャァァァアアアアア!」


 クラーケンの甲高い悲鳴。


 その声が断末魔の叫びとなった。


 大型の帆船を優に包める大きさをした湖の暴君が粉々になる。


「うそだろ」


「なんだあの子」


「本当に勝ちやがった」


 岸から戦いを眺めていた漁師やレンタル場のおっさんが唖然とする。


 龍斗にとってはもはやお馴染みの反応だ。


「証明終了」


 安堵の息を吐く龍斗。


「流石なのです!」


 ポポロは龍斗に駆け寄り、彼の腹部に抱きついた。


「今回の砲撃、キャノン砲の射程から外れていたよね」


 仁美も近づいてくる。


「そうだな。クラーケンまで50メートル程あったし、威力はいくらか減衰されていたはずだ。おそらく4割減といったところか」


「4割って……殆ど半分じゃない」


「まぁな」


「それでも一撃なのね……」


「ぶっちゃけどうなるか分からなかったけどな」


「そうなの?」


「クラーケンの耐久度が見た目ほどじゃないことは文献から分かっていたけど、それでもキャノン砲の威力がどこまで減衰されるかは分からないからな。とはいえ、一撃で倒せる自信はあったよ」


「そうなんだ。なんで?」


「今までの経験で培ってきたリアルなデータがそう告げていた」


 リアルなデータ――それは言い換えるなら直感だ。


 文献のデータに経験則のデータを加えることで、彼の理論は完璧なものへと進化していた。

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