042 滋賀県 蓬莱駅 琵琶湖

 月曜日。


 龍斗たちは電車で滋賀県の蓬莱駅に来ていた。


「これから平日になると毎日この長旅をすることになるのかぁ、嫌だなぁ」


 電車から降りると、仁美は言葉通り嫌そうな顔をする。彼女は電車が嫌いだから車に乗っているタイプだ。


「そう言うと思って、近くの旅館を9月末まで押さえておいたよ」


「おー、気が利くじゃん!」


「流石なのです!」


 龍斗はスマホを取り出し、マップを調べる。前に蓬莱駅へ来たのは何ヶ月も前のことなので、すっかり道を忘れていた。


「あっちだ」


 スマホを片手に歩く龍斗。その後ろを仁美とポポロが続く。


「田舎だねぇ、こういうのもいいねぇ」


「空気が美味しいのです!」


 歩くこと数分で目的地となる船のレンタル場に到着した。


「看板に書いてある通りここは冒険者専用だよ」


 龍斗たちが近づくと、レンタル場で暇をしているおっさん職員が気怠そうに言った。


「俺たちは冒険者だ。魔物を狩るために来ている。船を貸してくれ」


「魔物を狩るためって……ふざけてんのか? たった三人じゃ無駄死にするのが目に見えている」


「私もそう言いました」と仁美が苦笑い。


「大丈夫だ、俺の理論に狂いはない。特に今回の敵は雑魚だ。コカトリスクイーンに比べたら安全且つ確実に仕留められる。何の問題もない」


「理論だかなんだか知らないけどよ、相手はクラーケンだぞ? クラーケン。ザコなわけないだろ。数ヶ月前に挑んだ冒険者のPTは100人がかりで挑んだが全滅だ。みんな死んじまったんだよ」


「分かっているさ、相手がクラーケンってことくらい」


 琵琶湖に棲む唯一の魔物――それがクラーケンだ。


 縄張り意識が非常に強く、縄張りに侵入した者であれば魔物だろうと食い殺す。その凶暴性から「暴君」と恐れられていた。


「今日は午後になってしまったが、今後は朝にきっちりクラーケンを倒してやる。そうすれば古き良き琵琶湖の漁業も復活できるぜ。ま、平日限定だがな」


 自信満々に言う龍斗。


 それに対しておっさんは「凄い自信だ。これは頼もしい。是非ともよろしくお願いします。巨大なタコ野郎なんざひとひねりにしてくださいよ」と大興奮――とはいかなかった。


「頭大丈夫か?」


 それがおっさんの言葉だった。


「私もそう思うのですが、信じてやってください」


 仁美はただただ苦笑いで頭を下げる。


「ま、好きにすりゃいいさ。俺に断る権利なんてないしな」


「どうも」


「で、どれにする? 小舟から帆船まで何でも揃っているが」


「なら大きめの帆船と漁船を借りようか」


「なっ……三人しかいないのに二隻も使うのか?」


「ルール上、何の問題もないはずだが?」


「そ、そうだが……。船は税金で造られてるんだ。大事に扱えよ」


「できるかぎりな。明日以降も同じ物をレンタルするから、帆船の予備を調達しておいてくれ。それなりに大きくて安全且つ勝手に進んでくれるならなら、中身はスカスカのガワだけでも構わない。なんなら船の形じゃなくてもいい」


「は、はぁ……」


 こうして龍斗は帆船と漁船を手に入れた。


「さぁ理論の証明に行こうか」


 新たな狩りの始まりだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る