022 寄り道

 翌日、龍斗と千尋の間には、妙に気まずい空気が漂っていた。昨夜の一件が尾を引いている。


「きょ、今日も、どっか行く? 行きたいとことかあるなら、案内、するよ?」


 昨日コンビニで買ったおにぎりを食べながら千尋が尋ねる。


「いや……今日はすぐに帰ろうかな」


 龍斗も同じ味のおにぎりを食べる。梅味と思って食べたらツナマヨだったので驚いた。


「そっか、ほな食べたら駅まで送るね」


「うん、ありがとう」


「なんかごめん」


「俺のほうこそ、法的にアウトな若さでごめん」


 龍斗なりのジョークだ。


 それは伝わり、千草は「ほんまやで」と笑った。


「18になったらまた泊まりにきてや」


「その時は手取り足取り指導してくれ」


「任せとき! って、こんな言い方やとウチがビッチみたいやん」


「たしかに」


「言うとくけどビッチちゃうから」


 どうにかぎこちない空気が和らいだ。


 ◇


「また大阪に来てなぁ」


「もちろん。色々とありがとうな」


「こっちこそ助けてもらって感謝してるで。ウチだけじゃなくてクランのみんなも龍斗にお礼言うといて言うとったわ」


 新大阪駅の改札前で、龍斗と千尋は別れの言葉を交わした。


「それじゃ、また」


 龍斗は改札を通ると、東京行きの新幹線に乗車した。しかし、彼が向かうのは東京ではない。京都だ。


「遅延もないようだし、今日こそ寄っていくか」


 龍斗には行きたいところがあった。その為に昨日は京都で下車したのだが、そこへ魔物が襲来したものだから寄れないでいた。


「えーっと、たしか、これだな」


 京都駅に着くと、目当ての電車を探して乗り換える。しばらく電車に揺られたあと、ようやく目的地となる滋賀県の蓬莱駅に到着した。龍斗が本当に寄りたかったのは京都ではなく滋賀だったのだ。


「いいなぁ、この感じ。空気が美味い」


 蓬莱駅を下りた先に広がっていたのは緑だ。東京や大阪のようなコンクリートは殆どなくて、視界の多くは緑が占めていた。


「えーっと、たしか……」


 スマホに表示したマップを参考に移動する。


「ここだな」


 数分後、彼は目的地となる船のレンタル場に到着した。ボートから漁船までなんでもござれといった調子で揃えているが、利用者は全くいない。それもそのはずで、看板には「冒険者以外お断り」と書いていた。この店は琵琶湖に存在する魔物を狩るのに使う船の貸し出しを行っているのだ。


「アクセス方法は分かったし帰るか」


 これで龍斗の寄り道は終了だ。彼は蓬莱駅の周辺を楽しむことなく、再び駅へ戻ろうとする。


 しかしその時、琵琶湖の上を進む大きな帆船を見つけた。まるでゲームや漫画に出てくる海賊船のようだ。船には100人を超える冒険者が乗っている。


「あいつら挑む気か」


 琵琶湖に棲息する魔物は1体しかいない。船が近づいた時にのみ姿を現す巨大なボスだ。


「出た!」


 龍斗が見守る中、そのボスが姿を現した。


「「「ぎゃあああああああああああああああああああ」」」


 数分後、冒険者たちの悲鳴が聞こえてきた。戦闘はあっという間に終わり、冒険者は船ごとボスに潰された。


 ボスは戦いが終わると何もなかったかのように琵琶湖の底へ消えていく。


「話に聞いていた以上の化け物だな」


 龍斗は先ほど見たボスの攻略法を入念に検討しながら東京へ戻った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る