第5話

「日本ってんだけど、知らない?」


嘘は言ってないし良いよね?

そしたら案の定


「いや、知らないな。そもそもアルメニアにある国なのか?」

「アルメニアには無いかな。島国だし。ニホンって変わっててね、他国からの名称が沢山あるんだよ。例えばニッポン、ジャパン、ハポン、ヤーパン、ジパング辺りがそうなんだけど…」


まあ、無いだろうな


「やはり知らないな。そもそも島国を知らない」

「ハポンなら知ってるぞ。国ではないがな」

「なに?」「え?」


ヨセフからまさかの発言に、驚きを隠せない俺とガゼル


「おいおい、忘れたのか?お前も行っただろうが」

「すまないが全く憶えが無い」

「大戦前だよ。ほら、アルメニア南部の港町に行ったじゃねーか。その沖合に有った群島の総称がハポンだったろう」

「……あ?…ああ!!あそこか!人種差別の無い珍しいトコだったよな?」


どうやらホントに有るらしい

しかも群島。島って…


「やっと思い出したか。人種差別が無かったのは、元々海人族との交流が有ったからだ」

「そうだったな。その影響で陸人(おかびと)唯一の魚介の生食文化には驚いた」


ハポン、群島、魚介の生食…

ここまで揃うと怖いものがあるな

日本も規模がデカいけど、群島っちゃ群島だよなぁ


「となると、リョースケはハポンから来たって事でいいのか?」

「うーーん…」

「何だ?違うのか?」

「さっきも言ったけど、日本は島国。国家であって、一地方ではないんだよ」

「そうか、そうだったな…うーむ」


それにしてもいい事聞いた。晴れて解放されたら、そこを目指すのもアリだな

陸人はまんまだとしても海人族は気になる。海人(うみんちゅ)って事かな?まさか“深き者共"じゃないよね?「ふんぐるいむぐるうなふ」とか言い出さないよね!?


「………ふむ。だいぶ日も傾いた様だし、今日はここ迄としよう」


言われて壁を見上げれば穴は暗く、いつの間にか松明が一本掲げられていた

ようやっと解放されるのか


と、思ったら


「すまないが、あと一晩そのままで居てくれ。俺は問題ないと思うが、他の者の気持ちもあるのでな」

「マジか…だいぶ辛いんだけど……弛めるのも…ダメ、かな?」

「すまんな」


だよねぇ


「だったら、まあ、しょうがないか。明日は何とかなるんだよね?」

「そうだな。まず、大丈夫だろう」

「あと一晩頑張ってみるよ。また明日」

「ああ、また明日な」

「明日まで大人しくしてろよ〜」

「うっさい。お前から土手っ腹に貰ったの知ってんだからな!!明日覚えてろよ?」


絶てぇ明日ヨセフに一発入れてやる


「お〜怖っ。じゃあな、いい夢見ろよ〜」

「こんな状態でいい夢なんか見れっかよ!」


バタンと戸が閉まる

ザッザッと足音が離れて行く


「鍵、掛けねぇのな」


そうなのだ。聞こえたのは戸を閉めた音と、遠ざかる足音のみ

カチャンという鍵の音も、ゴトゴトという閂の音も無かったのだ


「不用心だよな〜」


そう独りごちていると、通風口から冷たい夜風が入り込み、ブルりと震える


「おぉーさっむ」


身体を丸め摩る事も出来ないので、体温は下がる一方

そして、下がる体温の代わりに首を擡げる様に上がって来たのは、忘れ去っていたアレ


そうNYOUI


「あ"あ"あ"あ"あ"ぁ!やヴぁい!?すっかり忘れでだ!!」


くっそ、また明日じゃねーよ!今だよ!!



「おーーい!誰かいねーのー!?」


返事がないただのしかばねのようだ

聴こえるのは虫と鳥の聲ばかり

マジかよ!?見張り立てろよ!?


「あぁーも〜マジムリしんどい!!!」










そんな死闘を繰り広げ


初めて迎えた異世界の朝(実は違う)は


朝露と



それと


おしっこに濡れていた







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無知で無力な異世界紀行〜ゼロスタートだけどせっかくの異世界なのでイロイロ観て廻ろうと思う〜 Shi-No @h19890307

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