第21話
「とにかく、なんにしてもこれを届けない限りは終われないのよね」
そして、小さく、「よし」とつぶやく声が聞こえた。
けれども、明の足はなかなかその場から動かない。
じっと様子を見つめる
それでも、まるで彼女の足が床に根ざしてしまったかのように、その場に立ち尽くすばかりだった。
自分の意に
その事実が明の表情を次第に
「……あはは、話してたら落ち着くかもって思ったんだけど……。やっぱ、そう上手くはいかないかぁ……」
何かを
――違うと思った。
そんな声を聴きたかったのではない。
今、自分の心に走っているのこれは、痛みだ。
ならば、これ以上、それを続行することに意味はない。
「
明の手から新の手の感触が消える。
ここに来るまで感じ続けた熱が唐突に失われ、不安げな声を
「大丈夫だ」
そう一声かけて、先ほど離した左手を、明が左手に持っていた
「
「え、でも……」
「明、今、すっごく無理してるだろ。俺は……その、単に、そんな思いさせたくないってだけで……」
「新……」
思ったことをそのまま言葉にし、行動にする。
頭で思い
けれど実際はずっとぎこちないし、なんだかすごく恥ずかしいことを言っている気がする。
ただ、それでもいい。
そんなことは、この状況では、ひどく
ついでに、仕事の責任がどうとか。明がやらなきゃいけないとか。
本人には少しだけ申し訳なく思うけれど。
(そんなことより、今、俺は、
それを明は
「あ、あの、明さん?手、放してくれないと、持っていけないんですけど……」
目線の少し下にいる明に声をかける。
けれども、明はぐっと握った手に力を込め、静かに
そして、はーっと深く息を吐いたかと思うと、ぐっと顔を上げた。
そこにあったのは、薄ぼんやりとした視界の中でもはっきりとわかるほど力のこもった瞳。
「お
迷いなく、キッパリと宣言する。
「言ったでしょ、私は
その意志を
「そうか、わかった。あ~あ、なんか余計なお世話だったみたいだな」
だから、その決意を後押ししたくて。
せめて明るい空気になるよう、新はあえて
「ええ、そうですよ?ホント大きなお世話。だから……」
暗闇の中で明と目が合った。暗さに慣れた目に飛び込んできた表情は自信に満ちていた。
「私の仕事、ちゃんと見てて!」
明はそうとだけ言い残してベッドの方へとしっかり歩を進めた。
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