第18話

 メールで指示された保健室は二人が先ほどまでいたひがしとうと反対、すなわち西にしとうに位置する。

 階こそ同じ一階だが、違うのはその場所が西棟一階の最奥にあるという点だ。

 来た道をそのままなぞるように、廊下、エントランス、また廊下と歩き、無事にその部屋の前まで辿り着いた。

 職員室と同じく保健室も部屋の電気は消えていた。

 この奥に何が潜んでいるかわからない。だが、二人はもはや完全に『何かある』という想定のもとに行動していた。

 ドアに張り付くような姿勢から、あらたは扉に背を預けたままゆっくりと立ち上がり、扉に付いた丸い小窓のガラス越しに部屋の中を見た。

「どう?何か見える?」

「いや、さっぱりだな。誰かいるかもと思ったけど、ま、この暗い中じゃ人影があってもよく見えないだろうな」

「じゃあやっぱり、中に入って確かめるしかないってこと?」

「そういうこと」

「えぇ~……」

 あかりは露骨に嫌そうな表情を浮かべて、何とかそれ以外の方法を、と訴えるかのような声を上げた。

「心配するな。いきなり中に入れとは言わねぇから」

「言ってたらぶっ飛ばしてたし」

「あ、そう……」

 なんとも力強い返しだ。



「それじゃあ、まずは俺一人で中の様子を見てくる。それで何もなさそうなら、後から明が来ればいい。なにも無理する必要ははないからな」

 無意識に明を気遣ったからか、新は、知らず請け負うような調子で声をかける。

「うん、わかった。その……なんか、ごめんね」

言いながら、明は少し気恥ずかしい気持ちになった。

「……?それは何に対してだ?」

「内緒。いいから、それじゃあいっちょ、ていさつよろしく~」

 明は右手を斜めにして額に当てる。人懐ひとなつっこい笑顔を浮かべての敬礼のポーズ。

「まったく、簡単に言ってくれるよ」

 あきれるように笑いつつも不思議と嫌な気分ではなかった。

 それどころか、腹の奥から妙な使命感にも似た気持ちまでいてくる。

 新はすっと立ち上がり、そのままドアと相対あいたいする。逆に明はそこから避難するようにドアからさらに距離を取った。

 ドアの取っ手に手をかけると、先ほどのあかりに習い、新も大きく深呼吸をして気を落ち着かせた。

 そして一思ひとおもいにドアを右側にスライドさせる。今度はいとも簡単に開いた。

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