第16話

「さて、学校で出前を取るとなったら、まぁ可能性が一番高いのは、仕事で残っている先生だろう。先生がいる場所となれば当然……」

「……職員室ってわけね」

 あらたの後を受けて言葉を付け加えたあかりは、ドアの上部、「職員室」と書かれたプレートを見上げる。

 それを照らしているのは新がにぎるポケットサイズの懐中電灯。ボディバッグに入れて家から持参してきた物だ。

 暗闇を断つようにまっすぐに伸びるまばゆいばかりの光のたばは、何とも見ていて心強い。

「にしても、まさか配達する場所が分からないとは……」

 直前のやり取りを思い出して新はわざとらしく肩をすくめた。

 その言葉に明はぎくりと肩を跳ね上げる。

「ヴッ……だから、それはもう許してってばぁ~」

 そう言って、あははと、にくめない苦笑いを明が見せる。

 きっかけは少し前、昇降口での出来事だ。



 いざ配達に向かおうというところで、新は明にある一つのことを確認した。

 新がまだ聞いていない、重要な点。

 何のことはない。

 つまり、校内の、どの教室に配達するのかいうことだ。

「――というわけだから、これからどこに向かうんだ?」

 だから新は当たり前にそう問いかけた。

 だが、明は、まるでぽっかりと開いた落とし穴にはまったとばかりに呆気あっけにとられた顔をした。

「……わかんない」

「……はい?」

「わからないです」

「いや、聞こえてますけど……」

 問題はそこではない。

 それは明も重々承知だったらしく、みるみるうちに、その表情はこおり付いていった。

「どっどどど、どうしようあらたぁ!!私、学校のどこに持っていけばいいか聞いてなかったよぉぉぉぉ!」

「なんで今頃いまごろ気付く!わかった!わかったから!とりあえず首元を引っ張るのをやめろ!」

 すっかりテンパった明がなりふり構わず、瞳をうるませながら首元にしがみついてきた。

 おかげでシャツの首元は心なしか先ほどよりルーズになってしまった。なんだか色気を強調しようとしているみたいで恥ずかしい。


 

 そんな当人をなだめて、ひとまずこの場所に連れてきて今に至る。

 明も 連れてこられた理由を聞いて納得したのか、職員室にたどり着くころにはだいぶ落ち着きを取り戻していた。

「よ、よし!それじゃあ、行ってきます」

「ん、頑張ってこい」

 気合の入った明の声は、それでもまだどこか固さがあった。

 とはいえ、それをちゃすのも野暮やぼな話。

 なので、新はせめて明の分までとつとめていつも通りに明の言葉を受けた。

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