第5話

「ええとね、ここ最近、商店街の色々いろいろなお店にな夜な電話がかかってくるの。ひどくこもった声で、その店のおススメの品物を持ってくること、それから配達場所だけ言ってすぐに電話は切れちゃうんだけど」

 

 あらた要望ようぼうに応え、あかりは一つ一つ、慎重に手順を踏むようにして内容を説明し始めた。

「今日かかってきた電話も、同じ感じだったの。『おススメ一つ、しらはま高校まで』っていう感じで」

 少し高めのよく通る声を無理やり低くしながら、明が芝居しばいがかった調子で再現する。

「学校からか?」

「そう。学校の番号は、ウチ、登録してあるから」

 日頃、先生たちもよく店を利用しているので、そのあたりが理由だろう。

「実際ね、その電話がかかってきたお店の人はみんな、ちゃんと出前を完了してるの。それに、ちゃんと容器の返却へんきゃくとかもあるんだって」

「なんだ、行った人が無事なら何の問題もないじゃないか」

 そんな新のあきれたような声を明は首を横に振って否定した。

「確かにね。みんな普通通りに出前自体は行えてるの。ただね……ただ、問題は」

「な、なんだよ。ハッキリ言えって」


「……その相手の姿すがたを見た人が、今のところ誰ひとりいないんだって」

 

 あえてそうしたのかわからない。

 だが、普段の彼女からは考えられないような静けさをまとった声が二人の間にせいじゃくをもたらす。

 外で降り続けるあまおと、そして観る相手もないままに流れ続けるテレビの音声。

 そのどれもが、音量を一だん上げたかと錯覚するほどに響いていた。

 新はなんとなく後ろが気になって振り返った。

 背中しに見えたリビングの扉は、なんだかひどく遠くにあるように感じられた。

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