第3話

 玄関でのそんな無意味なやりとりもそこそこに、あらたはすっかり疲れた様子の明に切り出した。

「それで?何の用だよ、あかり。こんな時間に」

「だから……それを、最初に、聞きなさいよ……っ!」

 ……思った以上に息もえだった。

 だが勿論もちろん、明も用もなく新の家を訪ねてきたわけではない。

 まぁいいわ、とばかりに明は気持ちを切り替え、ゆっくりと息を落ち着かせる。

 次いで、明が浮かべた表情。

 それは、新が普段目にするものとは別のいろのものだった。

「――どうした、バイト先で何かあったのか?」

 感じたことをシンプルに口にすると、明は目を丸くしておどろきの表情を浮かべた。

「すご……、なんで分かったの?」

「いや、まぁ……何となく、元気なさそうかなと」

 感心したような明の反応に新は少しばかり心がおどる。

「あ~……やっぱり、アンタにもそう見えるわけね……」

 ばつが悪そうに明はほおを人差し指でいた。

 だが、この変化に気付くのはきっと自分だけではないように新には思えた。

 たいを表すという言葉の通り、普段の明の様子は快活かいかつそのものだ。

 とはいっても、「元気が取り」というくらいでは、彼女をけいようするには物足らない。

 言うなれば、「元気」という言葉に手足が生え、ついでに何の因果いんがか美少女化してしまったような。

 とにもかくにも、そこにいるだけで人をきつけ、周りを明るくする。

 それがしばさき あかりという少女だ。

 だからこそ、少しばかり得意とくいげになったその心を隠すように、

「そりゃ、普段からあれだけ騒がしくしてればな」

 そんなかるくちを新は叩いた。

「はいはい、どうせ落ち着きのない女ですよ、私は」

 新の言葉を意にかいさずに明は軽く受け流した。どうにも、打ってもひびく感触がしない。

 言葉の裏で何かをしゅんじゅんしているような、そんな印象だ。

 ならば、と新は、えて明の次の言葉を待った。

「……ねぇ、新」

 少しの沈黙ちんもくの後、腹をくくったように明が名前を呼んだ。

「あのね……アンタに、大事な話が、あるの」

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