第2話

 まず思い浮かぶのは、茶色の髪をした女性の姿。

 年は結構けっこう若かった気がする。おそらく自分と同じくらいだろうとあらた推測すいそくする。

『バンバン!!』

 髪を後ろでくくっていた。身長はそう、160cmもなかった気が……。

『バンバンバンバン!!』

「……」

 そしてこれだけ人様ひとさまの家のドアを叩きまくる無遠慮ぶえんりょさ。

 それらの条件に該当がいとうする存在に、新は二人ほど心当たりがあった。

 一人は自分の担任教師、もう一人が昔から知る同級生の少女だ。

「ちょっとーーっ!なんでドア閉めるのよ!?私よわ・た・し、分かるでしょーっ!?」

 名前を名乗らず一人称だけを連呼する。

 さながら、ひと昔前の詐欺さぎ常套句じょうとうくのようなことを叫ぶその声は、後者こうしゃの人物のものだった。

 ドア越しにも関わらず、それを物ともしない大音量。

 大方おおかた、ドアに思い切り近づいて、声を張り上げているのだろう。

 ドアののぞき穴から相手の姿を確認すれば、そこにいたのはまさに予想通りの人物だ。

 仕方なく新はため息混じりに、のぞき穴に目をくっつけたまま外の人物に伝える。

「そこ、足元注意しろよ」

「え、足元?」

 疑問の声とともに外の人物が腰をかがめた時だった。

 新がおもむろにドアを押し開けると、ゴン、というにぶい音とともに、固い何かがヒットする感触があった。

 新が目線を下げると、頭頂部を押さえ、悶絶もんぜつしている一人の少女がいた。

った~っ!ちょっと!なんでいきなりドア開けるのよ!?」

「なんだ、あかりだったのか。てっきり時代遅れの詐欺師かと」

「なんだ、とは何よ!っていうか、詐欺師と思ったのなら開けるな!どんだけ防犯意識うすいのよ、アンタのいえは!?」

 ドアの向こうに立っていた少女、しばさき あかりは怒気をはらんだ声を遠慮なしに張り上げる。

 ぱっちりとした大きな茶色の瞳に均整きんせいの取れた目鼻立ち。瞳の色よりもう少し明るめの茶色の髪は普段のポニーテールとは違い、ゆるくハーフアップ気味にまとめられている。身長は155cmと平均的。ただ、普段から動き回る性分のせいか、腕やあしまわりは引き締まって健康的な印象を感じさせる。

 一目見れば、目をかれてしまうようなそのたたずまい。

 だがそれが、十年近くとなりに存在したとなれば、話は別だ。

 小学校に入った頃から高校二年生の現在にいたるまで、いつも隣にあったその姿。

 いわゆるおさなじみという関係の二人は、たがいがいわば日常の一部だった。

「だから、こうやって撃退しようと……」

 カラカラと玄関タイルをこする音を上げていたのは、いつのまにか新の右手ににぎられた金属バットだ。

「怖いわ!アンタ仮にも同級生の女子が家に来たのに、どんだけ過激かげきむかえする気なの!?」

柴崎しばさき、野球しようぜ」

「しないわよ!」

「お前ボールな」

「だから、私の扱い!」

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