出前をとる幽霊

千里 歩

第1話

 時折ときおり、調子を変化させながら断続的だんぞくてきに雨が降り続く、7月中旬のとある夜。

 まとわりつくような湿気から隔絶かくぜつされた、空調の効いた自宅のリビング。

 この家の住人である木元きもと あらたはソファに身をしずめ、ぼんやりとバラエティ番組をながめていた。

 特にこれといった目ぼしい番組もなく、ただ無目的むもくてきにザッピングする。

 明日の小テストの勉強のためにと持ってきた英単語帳は、すでに手を離れてリビングテーブルの上だ。

 みょうに落ち着かない気分でスマートフォンに触れると、自動的にホーム画面が表示される。

 時刻はちょうど20時になろうかというところ。

 突如とつじょ、インターホンの音が鳴った。

 あらたはぐっとひざに力を入れて腰を浮かし、ソファから身をがした。



 リビングの扉を開けて廊下ろうかに出ると、じめっとした生暖なまあたたかい空気があらたを出迎えた。

 しかめっつらを浮かべ、まとわりつくような熱気をかき分けて玄関へ進む。

 リビングに戻ったらアイスを食べよう。

 こんな熱気は冷たいもので吹き飛ばすに限る。

 アイス、かき氷、海にプール。肝試きもだめしなんかも、こんな暑さならありな気がした。

 次々思い浮かぶ取り留めもない想像を頭の片隅かたすみへ追いやり、新は玄関の扉を開けた。

あらたぁ……助けてぇ……」

「ぎゃあああああああ!!」

 扉の向こうにかいた姿に戦慄せんりつし、あらたは急いで扉を閉めた。

 バン!といきおいよくおとを上げた扉を押さえつけるようにしながら、シリンダータイプのかぎを回し、U字ロックをろす。

「な……なんだったんだ、今の……」

 玄関にへたり込み、荒くなった息をととのえる。

 そしてひとしきり落ち着きを取りもどしたところで、ゆっくりと先ほど目にしたもうりょうの姿を思いかべた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る