第4話

 学校という名の監獄から開放された私は、急ぎ足で帰路についた。



 学校から30分程で家へと帰ってきた私は、ブレザーを脱ぐことすら忘れベッドへと飛び込んだ。ポケットからスマホを取り出し、「コネクト」を開く。



『ねえ、ユウトくん! 聞いて聞いて!』


 興奮気味にメッセージ送る。間髪入れずに既読が付く。


『どうしたの? そんなハイテンションで』


 珍しく返事が早いことなど今はどうでもよく、それ以上に今日の出来事を話したくて仕方がなかった。



『ほら、私さ、人の心が読めるって言ったじゃん! 今日席替えあったんだけど、隣の人の心が全然読めなかったの!』


『お、おう……。なんで嬉しそうなの?』


『いやだって、そんな人今まで出会ったこと無かったし、そーいう人となら昔の私のように気楽に振る舞えるかなぁなんて』


 そこまで言って、少し口走りすぎたことに気がつく。彼にはまだそこまで込み入った話はしたことがなかったし、今後もするつもりは無かった。


『そうか、良かったじゃん。あ、僕も今日席替えだったよ。ぼっち席をキープ出来て良かった』


『ぼっち席ってなによ!?笑笑』


『窓側の最後尾で、周りに騒がしい人たちがいない席』


『何それ笑えるっ笑 確かにぼっち席だ!』



 心臓が妙にうるさい。理由は分からないけど、なにかおかしな病気にかかったみたいだ。彼は本当に優しい。私が口走ったのを察してか、話題を少しだけ逸らしてくれた。それだけなのに、心臓が高鳴ってしまう。



『あ、でもひとつだけぼっち席じゃなくしようとする要素はあったな』


『え、なになに??』


『隣の席の人が、この前の容姿を言い当てる時に参考にした人だった。その人学年の人気者だから、隣にいられるだけで眩しい』



 思わず声を出して笑ってしまった。彼のぼっち属性は、彼自身がそう思い込んでいるだけなのか、実際にぼっちなのかは分からないが、少なくともここで話している彼は十分に眩しい。そんな彼が私に似たの人の事を眩しいなんていうもんだから、その彼女は本当に発光しているんじゃないかと思ってしまう。シュールすぎて、想像するだけでまた笑ってしまいそうだ。


『ユウトくんも十分眩しいよ!笑』


『僕はパリピの蛍たちみたいに輝きたくないんだよ。生きるために最低限輝いてればいいさ』


『何それ笑 あぁ、隣の子に話しかけようかなぁ……』


 もし仲良くなれるのなら、喜んで仲良くなりたい。隣の席の彼には、何故か心を開けるような気がした。


『いいんじゃない? それならそれで。サラさんになら話しかけられて嫌な人はいないと思うよ』


 そっか……。なら話しかけてみようかな……。なんて考えながら、彼との話を一旦切り上げた。



   □   □   □   □



 薄々勘づいてはいた。確信があった訳では無いけど、そうなのではないか……と。






「すまん、ユウト……今日急に俺らサッカーの練習が入っちまってな(入ってない)。だから悪ぃ、今日の約束無しにしてくれ!(ユウトはいらない)」


「そっか、わかったよ。練習頑張れよ!」


 仲がいいと思っていたやつは皆ニセモノだった。皆僕に嘘を付いて、僕だけを要らないもの扱いしていたのだ。

 涙は出なかった。悲しくもなかった。どこかで「パキッ」という音が聞こえた────。







 ────目が覚めた。嫌な夢を見ていたような気がする。思い出したくもないような何か。それが何かは分からない。まあいいか。気にしてもしょうがない。


 気持ちを切り替えて学校へと行く。




「お、おはよう、月待くん」


 驚きのあまりすぐには声が出なかった。なかなか返事が貰えないからか、訝しげに思った彼女がこちらを凝視する。


「……おはよう」



 今日は朝から安泰というものから程遠いように思う。まさか2日連続で声をかけられるとは。

 席についてカバンの中のものを机に押し込む。隣を見ると、彼女も同じように荷物を机へと入れていた。そんな中ふと気がついたことがあった。


 彼女はノートや教科書1冊1冊にフルネームで丁寧に名前を書いている。この高校は、学年、クラス、番号、苗字だけ書いておけば問題ないことになっている。フルネームで書く人などほとんど居ないのが現状だ。

 この時僕は、初めて彼女のことを知ったような気がした。










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